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バラ Roses

エルネスト・クォスト Ernest Quost

エルネスト・クォスト作《バラ》:「オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語」展より

「オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語」展では、エルネスト・クォストによる油彩画《バラ》が展示されています。この作品は、印象派の画家たちが「室内」という空間に注いだ独自の視点と、装飾芸術への関心を示す重要な一点です。

作品の背景・経緯・意図

本作《バラ》は、1909年から1916年にかけて制作されました。特筆すべきは、この作品が1909年にフランス国家からの依頼により、パリのヴァロワ街にあった美術省次官室のサロンを飾るために制作されたという背景です。1916年に納品されたこの大規模な装飾パネルは、公的な空間に自然の美と色彩をもたらすことを意図していました。エルネスト・クォストは、生前からクロード・モネやフィンセント・ファン・ゴッホといった同時代の巨匠たちからも花を描く才能を高く評価されており、その専門性が国家からの委嘱につながったと考えられます。

技法と素材

素材は油彩、カンヴァスです。クォストは、セーヴル磁器製作所で培った花の装飾技術と、植物学の研究から得た深い知識を背景に、花々を生き生きと描くことに長けていました。彼の画風は印象派の特徴である、速い筆致と色彩の分割によって光と色彩の本質を捉えることに重点を置いています。

《バラ》は縦長のカンヴァスに描かれており、奥行きを表現するために後方のバラをぼかし、手前の白いバラを際立たせる写実的な遠近法が用いられています。これにより、観る者は一面に咲き誇るバラの花園に引き込まれるような感覚を覚えます。会場では、この作品がもう一点の《バラ》と対をなすように並べて展示されており、その装飾性が強調されています。

作品が持つ意味

本作品は、単なる花の描写に留まらず、室内空間を豊かに彩る装飾としての絵画の可能性を示しています。印象派の画家たちはしばしば戸外の光景を描きましたが、この展覧会のテーマである「室内」を通して、彼らが室内装飾や私的な空間における芸術表現にも関心を抱いていたことが明らかになります。国家からの依頼による制作という事実は、クォストの作品が当時のフランス社会において美的価値と公的な装飾の役割を担っていたことを意味しています。また、バラという「花の女王」を描くことで、美しさや豊かさ、あるいは国の象徴としての意味合いも込められている可能性が考えられます。

評価と影響

エルネスト・クォストは、パリのサロンで数々のメダルを受賞し、レジオンドヌール勲章も受章するなど、生前は高い評価を得ていました。特に彼の花の絵は、ヴァン・ゴッホが弟テオへの手紙で言及するなど、多くの画家に影響を与えました。

《バラ》は、現在オルセー美術館に収蔵されており、今回の「オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語」展において、印象派が持つもう一つの魅力、「室内」における表現を読み解く上で注目すべき作品として紹介されています。大型の装飾パネルとしての性質、そして展示会場で撮影スポットとなるほどの存在感は、クォストの卓越した花の描写力と、空間を彩る芸術としての絵画の重要性を再認識させるものです。この展覧会は、約10年ぶりに大規模に来日したオルセー美術館の印象派コレクションの中でも、特に「印象派の装飾」という側面に光を当て、美術史におけるクォストの功績を改めて世に示す機会となっています。