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置時計「生の賛歌」 Hymn to Life

ピエール=オーギュスト・ルノワール リシャール・ギノ Pierre-Auguste Renoir, Richard Guino

ピエール=オーギュスト・ルノワールとリシャール・ギノによる共作、置時計「生の賛歌」は、1914年にブロンズ、ロストワックス鋳造という技法で制作されました。この作品は、画家ルノワールの晩年における新たな表現への挑戦を示す重要な一点です。

制作背景・経緯・意図 画家ピエール=オーギュスト・ルノワールは、晩年の20年以上にわたり重度のリウマチ性関節炎を患い、その痛みと手の不自由さに苦しみました。1910年頃には車椅子での生活を余儀なくされ、絵筆を自由に振るうことさえ困難になりましたが、それでも制作への情熱は衰えませんでした。ルノワールは70歳を過ぎた1913年以降、絵画制作の傍ら、彫刻という新たな表現形式に本格的に取り組み始めます。しかし、自ら粘土をこねて形を作ることは身体的に不可能であったため、彫刻家リシャール・ギノとの共同制作という方法を選択しました。ギノはアリスティド・マイヨールの弟子であり、ルノワールは彼を「自分の手」と呼び、細かな指示やデッサンを通して自身の構想を伝え、ギノがそれを立体化するという形で作品が生まれました。置時計「生の賛歌」も、こうしたルノワールとギノの密接な協力関係のもと、1914年に制作された作品です。この時期のルノワールは、自身の芸術の集大成として、生命の喜びや豊穣さを表現しようという強い意図を持っていました。ルノワールは、その生涯を通じて女性像や裸婦像に、温かく健やかな生命力を描いており、本作品のタイトル「生の賛歌」も、まさにその主題を象徴しています。

技法・素材 本作は、ブロンズを素材とし、ロストワックス鋳造(蝋型鋳造)という伝統的な技法を用いて制作されました。ロストワックス鋳造は、まず蝋で原型を作り、その周囲を石膏などで覆って型を取り、蝋を溶かし出してできた空洞に溶かした金属を流し込むことで、細部まで精密な表現が可能な技法です。これにより、ルノワールがデッサンや指示で示した彫刻の柔らかな質感や量感が、ブロンズという堅固な素材で忠実に再現されています。

意味 「生の賛歌」という作品名は、ルノワールが晩年に追求した芸術の核心を体現しています。彼の後期から晩年の作品は、印象派時代の光の表現から一転し、より古典的な様式へと回帰しながらも、女性の身体の持つ豊かな量感や、生命そのものの喜び、そして官能的な美しさを賛美する主題が多く見られます。この置時計に込められた意味も、まさしく生命の豊かさ、そして人生の幸福に対する肯定的な眼差しであると考えられます。特に、この時期のルノワールが「勝利のヴィーナス」といった神話的な主題の彫刻も手がけていることからも、普遍的な生命力への賛歌がこの作品の根底にあると言えるでしょう。

評価・影響 ルノワールの彫刻作品は、絵画に比べて制作点数は少ないものの、彼の芸術家としての飽くなき探求心と、身体的な制約を超えて表現を追求する強い意志を示すものとして高く評価されています。特に、リシャール・ギノとの共同制作による彫刻群は、ルノワールの精神的遺産として重要な位置を占めています。彼の晩年の作品は、印象派を離れて古典主義の様式に回帰しながらも、独自の色彩と量感を追求し、アンリ・マティス、ピエール・ボナール、パブロ・ピカソといった後世の多くの芸術家たちに大きな影響を与えました。日本においても、梅原龍三郎や中村彝などの画家がルノワールから影響を受けたとされています。現在、オルセー美術館をはじめとする世界各地の主要な美術館に、ルノワールとギノの共作である彫刻が所蔵されており、その芸術的価値が広く認められています。