シャルル=ジュスタン・ル・クール Charles-Justin Le Cœur
本記事では、現在開催中の「オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語」展に出品されている、シャルル=ジュスタン・ル・クールによる作品「ジョルジュ・ビベスコ公の邸宅設計案(大階段の断面図、大広間の天井、食堂の天井、武具の間の天井)」について解説します。
アーティスト名: シャルル=ジュスタン・ル・クール (Charles-Justin Le Cœur) 制作年: 1870-1872年 技法・素材: 鉛筆、黒インクのペン、水彩、金と白のグアッシュのハイライト/紙 所蔵: オルセー美術館、パリ
本作品は、19世紀後半のフランスを代表する建築家の一人、シャルル=ジュスタン・ル・クール(1830-1906)が、ジョルジュ・ビベスコ公の邸宅のために手掛けた設計案の一部です。ル・クールは、パリのエコール・デ・ボザールでアンリ・ラブルーストに学び、フランス第三共和政期において、公共建築と民間建築の両方で活躍しました。特に、パリの多数の高等学校(リセ)やヴィシーの温泉施設などを手掛け、そのキャリアの頂点にはヴィシーのカジノと劇場があります。彼はまた、ヨーロッパの貴族階級や政治家、芸術家といった個人の顧客のための建築も多く担当しました。
この「ジョルジュ・ビベスコ公の邸宅設計案」は、そうした彼の個人的な依頼主からの重要なコミッションの一つであり、パリのラトゥール・モブール大通り22番地に位置するビベスコ公の邸宅(オテル・パルティキュリエ)の設計のために制作されました。この設計案は、大階段の断面図、大広間の天井、食堂の天井、武具の間の天井など、邸宅の主要な内部空間を詳細に示しており、当時の上流階級の生活様式と彼らが求めた豪華な室内装飾を反映しています。
本作品は、1870年から1872年にかけて制作されました。使用されている技法と素材は、鉛筆による緻密な下書きに加え、黒インクのペンで線が引かれ、水彩絵の具で色彩が施されています。さらに、金と白のグアッシュによってハイライトが加えられ、デザインに立体感と豪華さが与えられています。これらの素材と技法は、当時の建築図面において一般的なものでありながら、ル・クールの優れた描写力と色彩感覚を示しています。紙の上に描かれたこれらの図面は、単なる機能的な設計図にとどまらず、それ自体が美術作品としての価値を持っています。
この設計案は、シャルル=ジュスタン・ル・クールの建築家としてのビジョンを示すと同時に、19世紀後半のパリにおける貴族の邸宅の室内空間が、いかに綿密に計画され、装飾性に富んでいたかを物語っています。各部屋の天井や大階段といった要素は、居住者の社会的地位や趣味を表現する重要な舞台でした。
また、本作品が「オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語」展に展示されていることは、その時代における「室内」というテーマの多面性を浮き彫りにしています。印象派の画家たちが戸外の光を捉えるだけでなく、同時代のパリのモダンな生活空間や親密な室内情景にも焦点を当てたことを考えると、この建築図面は、印象派が描いた「室内」のリアリティを形作った、当時の建築的背景を理解する上で重要な意味を持ちます。ル・クール自身も、印象派の画家オーギュスト・ルノワールの友人で、彼の初期の活動を支援した人物であり、建築と絵画という異なる芸術分野が密接に結びついていたことを示唆しています。
シャルル=ジュスタン・ル・クールは、第三共和政の重要な建築家として評価されており、彼の作品、特にヴィシーの建築群は、多色使いへの好みと、その後のアール・ヌーヴォー様式にも通じる美的感覚を示していました。ビベスコ公邸の設計案は、彼の広範な民間顧客との仕事の一例であり、当時の裕福な階級の建築に対する要求に応える彼の能力を証明するものです。
この設計案は、オルセー美術館のコレクションに収蔵されており、当時のフランスの建築と室内装飾の精華を示す歴史的資料として、また美術史的な文脈における「室内」の重要性を伝える作品として、現代においてもその価値が認識されています。単なる図面としてではなく、当時の文化や芸術を映し出す鏡として、後世に影響を与え続けています。