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花の中の子ども (ジャック・オシュデ) Boy in Flowers (Jacques Hoschedé)

エドゥアール・マネ Édouard Manet

「オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語」展より

エドゥアール・マネ作 《花の中の子ども(ジャック・オシュデ)》

本作品は、1876年にフランスの画家エドゥアール・マネによって油彩でカンヴァスに描かれました。作品のタイトルにもある「ジャック・オシュデ」は、印象派の主要なパトロンの一人であった実業家エルネスト・オシュデの長男です。

制作の背景と経緯

1876年の夏、マネは印象派の画家たちを支援した実業家エルネスト・オシュデの招きを受け、パリ東郊のモンジュロンにあるオシュデの城館を訪れました。 マネはこの約2週間の滞在中に、オシュデ家のカントリーハウスを飾るための複数の絵画を制作しました。 本作品もその一つで、オシュデの別荘内の戸口上部を装飾する目的で発注されたものと考えられています。 しかし、この絵は未完のままマネのアトリエに置かれ、1883年に彼が亡くなるまで手元にあったとされています。 オシュデは後に破産し、モネの代表作《印象・日の出》もオークションで売却された経緯があり、本作品も購入されないままとなっていた可能性があります。

技法と素材

使用されている素材は油彩とカンヴァスです。 マネはこの時期、1860年代に特徴的だった黒を多用し、色を平坦に塗る手法から変化していました。 印象派、特にクロード・モネからの影響を受け、より明るい色彩と生き生きとした筆致を用いるようになり、戸外の光の下での「現代生活」という主題を追求していました。 本作品には、前方の植物の配置や平面性にジャポニズムの影響が見られ、明るい色彩と自由な筆致で描かれた、この時期のマネの特徴が表れています。 構図においては、伝統的な遠近法を無視し、前景に焦点を絞ることで空間が圧縮されている点が指摘されています。

作品の意味

絵画には、オシュデ家の庭園の草花の中に埋もれるようにして、オシュデの長男ジャックが描かれています。 その傍らには、マネの他の作品にも見られる装飾的な鉢が置かれています。 色とりどりの花々に囲まれた幼いジャックの姿は、自然の中での安らぎと無邪気さを表現しています。 花々はしばしば生命の美しさや儚さ、あるいは自然の力の象徴として用いられ、少女(※本作品の記述では少年)がその中にいることで、無垢さや純粋さが強調され、自然と人間との調和が視覚的に豊かな形で表現されています。

評価と影響

この作品は、マネが印象派の先駆者として、近代絵画の発展に貢献したことを示す一例です。 国立西洋美術館に所蔵されており、1982年に購入されました。 初期の展覧会での批評家や来場者からは、その主題が不可解で、構図がまとまりがなく、描写が粗いと評されることもありました。 しかし、今日では近代性の象徴として認識されています。 本作品は、画家としてのマネの成熟度と技術的な卓越性を示し、色彩の豊かさ、構図の巧妙さ、そして象徴的な意味合いが融合し、見る者に深い印象を与える19世紀フランス絵画の重要な作品です。 今回の「オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語」展では、「印象派の装飾―室内への新しいまなざし」という第4章で展示されており、室内を装飾するための絵画としての印象派の作品が紹介されています。 マネの《花の中の子ども(ジャック・オシュデ)》とモネの《七面鳥》は、オシュデ家の情景やモチーフを印象派らしい明るい色調と大胆な筆致で捉え、依頼主の趣味と印象派の美学を堪能できる作品として紹介されています。