エミール=オーギュスト・レイベール (図案) クリストフル社 Émile-Auguste Reiber (designer), Christofle & Cie
本作品「暖炉飾り(時計と燭台)」は、1873年にエミール=オーギュスト・レイベールが図案を手がけ、クリストフル社によって制作された装飾美術品です。ブロンズと銅を基材とし、パティネ加工、金・銀鍍金、そして有線七宝といった精緻な技法が用いられています。この作品は、同時代の「印象派」の絵画作品が描く室内の情景と密接に結びつき、当時の上流階級の生活空間を彩った豪華な調度品としての役割を担っていました。
19世紀後半のフランスでは、日本の開国(1854年の日米和親条約以降)を機に、浮世絵や陶磁器、漆器などの日本美術がヨーロッパに紹介され、大きな衝撃を与えました。この日本美術への熱狂は「ジャポニスム」と呼ばれ、フランスをはじめとする西欧諸国の美術界に多大な影響を与えました。エミール=オーギュスト・レイベールは、クリストフル社のデザイン工房長を1865年から務め、ジャポニスム様式の作品群を精力的に開発しました。彼は中国や日本の七宝焼や混合金属のブロンズ作品を模倣しようと努め、その技術と芸術性を探求しました。
本作品が制作された1873年は、ウィーン万国博覧会が開催された年であり、クリストフル社はこの万博で、レイベールによるジャポニスム様式のデザインを展示し、高い評価を得ています。暖炉飾りという形式は、19世紀のフランスにおいて、時計と一対の燭台がセットになった装飾品として広く普及しており、室内の中心的な装飾品として富裕層の邸宅を飾りました。本作品もまた、当時の上流階級の洗練された室内空間を彩る目的で、異国情緒あふれる東洋の美とヨーロッパの伝統的な金属工芸技術を融合させる意図のもとに制作されたと考えられます。
この暖炉飾りには、多様な金属加工と装飾技法が駆使されています。
本作品は、単なる時間を示す道具や照明器具に留まらず、当時の富裕層の美意識と社会的地位を象徴するものでした。東洋的なモチーフや有線七宝の技法は、異文化への関心とそれを自国の工芸技術に取り入れる技術力、そして高い経済力を示しています。また、19世紀のフランスにおいて、暖炉は室内の中心であり、その上に飾られる時計と燭台のセットは、その家の格式と文化的な洗練度を表現する重要なアイテムでした。ジャポニスムの流行の中で制作されたこの作品は、西洋の伝統的な室内装飾に東洋の異国情緒と洗練された技術を融合させることで、新たな美の価値を創出しようとする当時の装飾美術の動向を明確に示しています。
クリストフル社は、19世紀後半のフランスにおいて、電解メッキ技術の導入により銀器生産をリードし、国際的な万国博覧会で数々の賞を獲得しました。エミール=オーギュスト・レイベールがデザインしたジャポニスム様式の作品群は、1873年のウィーン万国博覧会や1874年のパリ装飾美術中央連合展、1878年のパリ万国博覧会で特に高い評価を受け、レイベール自身もグランプリを受賞しています。
彼のデザインとクリストフル社の卓越した技術によって生み出されたこれらの作品は、当時のブルジョワジーに愛され、日常使いできる美術品としてブランドの発展に貢献しました。ジャポニスムは印象派の画家たちにも影響を与え、その後のアール・ヌーヴォーやアール・デコといった芸術運動へと波及していきました。本作品のような装飾美術品は、絵画作品と共に、19世紀後半のヨーロッパの美的感覚と文化交流の歴史を物語る貴重な遺産となっています。現在、オルセー美術館では、19世紀のフランスのクロワゾネ七宝の素晴らしいコレクションが展示されており、この時期の技術の復興を反映しています。