ウジェーヌ・ルソー Eugène Rousseau
オルセー美術館所蔵「印象派―室内をめぐる物語」展にて紹介される、フランスの工芸家ウジェーヌ・ルソーによる「竹型花器」は、1878年頃に制作されたガラス工芸品です。この作品は、当時のヨーロッパで流行したジャポニスム(日本趣味)の潮流と、ガラス工芸の革新が融合した時代の特質を色濃く反映しています。
フランソワ=ウジェーヌ・ルソーは1827年にパリで生まれ、1855年に父から陶器店を引き継ぎました。彼はその後、日本の意匠やガラス器に関心を抱くようになります。ルソーは、日本の美術工芸におけるジャポニスムの先駆者として知られ、葛飾北斎をはじめとする日本美術から着想を得て、陶磁器やガラスなど多様な作品を制作しました。 19世紀半ばの日本の開国以降、浮世絵や絵皿、工芸品といった日本の美術品がヨーロッパに盛んに輸出され、西洋社会に大きな注目を集めました。 この日本美術への憧憬、すなわちジャポニスムは、アール・ヌーヴォーなどの芸術運動に多大な影響を与えました。
「竹型花器」の制作時期である1870年代後半は、印象派の画家たちが最初のグループ展を開催し、近代化が進むパリの現代生活を描写していた時代です。 本展のテーマ「室内をめぐる物語」が示すように、当時の芸術家たちは戸外の風景だけでなく、室内空間や装飾品にも深い関心を寄せていました。 竹というモチーフは、日本的な美意識を象徴するものであり、この花器は、当時の上流階級の室内を彩り、異国情緒あふれる洗練された空間を演出する目的で制作されたと考えられます。
この「竹型花器」は、ガラスを素材とし、型吹ガラス、着色、カット、エナメル彩、金彩といった多様な技法を駆使して制作されています。
これらの複合的な技法は、19世紀後半のフランスにおけるガラス工芸の技術的な進歩と、装飾芸術への深い探求を示すものです。
「竹型花器」の竹というモチーフは、東洋における清らかさ、しなやかさ、そして生命力といった象徴的な意味合いを持っています。ウジェーヌ・ルソーがこの花器に竹を選んだことは、単なる異国趣味に留まらず、日本美術が持つ精神性や自然観への深い理解と共感をうかがわせます。
ルソーは美術商としても活動し、同時代の工芸家(アペール兄弟など)と協力して日本的な意匠の工芸品を制作することで、フランスのガラス工芸の分野におけるジャポニスムの流行に大きく貢献しました。 彼の作品は、後にアール・ヌーヴォーの巨匠となるエミール・ガレなどにも影響を与え、ガラス工芸が単なる実用品から芸術作品へと昇華する重要な役割を果たしました。 今日、彼の作品は世界中の博物館に収蔵され、その革新性と美学が高く評価されています。
この「竹型花器」は、当時の室内空間における装飾品の重要性、そして印象派の時代に人々がどのように芸術を日常生活に取り入れていたかを示す貴重な作品として、本展においてその物語を伝えています。