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「セルヴィス・ランベール=ルソー」より平皿 藤沢 Plate with the View of Fujisawa from the "Lambert-Rousseau" Service

アンリ・ランベール(絵付) ウジェーヌ・ルソー(企画販売) Henri Lambert (decorator) Eugène Rousseau (produced by)

オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語

「セルヴィス・ランベール=ルソー」より平皿 藤沢

この作品は、1873年から1875年にかけて制作された「セルヴィス・ランベール=ルソー」の一部である「平皿 藤沢」です。フランスの美術商ウジェーヌ・ルソーが企画販売し、セーヴル国立製陶所の装飾画家アンリ・ランベールが絵付けを手掛けました。本作品は、19世紀後半のヨーロッパで隆盛を極めたジャポニスム(日本趣味)を象徴する、重要なテーブルウェアとして知られています。


制作背景・経緯・意図

本作が生まれた背景には、19世紀後半のパリにおける日本美術への熱狂がありました。美術商フランソワ=ウジェーヌ・ルソー(1827-1890)は、陶器やガラス製品の企画販売を手掛け、日本の意匠を取り入れた工芸品の制作に注力しました。彼は1866年に画家・版画家フェリックス・ブラックモンと共同で「セルヴィス・ルソー」を制作し、これがパリ万国博覧会で大きな成功を収めました。その人気を受け、ルソーはさらなる日本趣味のテーブルウェアの制作を企図し、1873年頃にセーヴル国立製陶所の装飾画家アンリ・ランベール(1836-1909)に新たな食器セットの絵付けを依頼しました。これが「セルヴィス・ランベール」、後に「セルヴィス・ランベール=ルソー」として知られるシリーズです。

「セルヴィス・ルソー」が銅版転写による大量生産品であったのに対し、「セルヴィス・ランベール」はアンリ・ランベール自身が手描きで絵付けを施した高級品であり、より絵画的な表現が特徴とされました。 「平皿 藤沢」に描かれた「藤沢」の景色は、歌川広重の『東海道五十三次』や葛飾北斎の『富嶽三十六景』といった日本の浮世絵に頻繁に登場する題材であり、当時のフランスの人々が日本に抱いていた異国情緒や憧憬を表現する意図がありました。 日本の版画から着想を得て、フランスの生活様式に合わせたテーブルウェアへと再構築することで、美術を日常の中に溶け込ませるという、当時の装飾美術における新たな試みの一環でもありました。


技法と素材

この作品は、陶器の一種である「精ファイアンス(faïence fine)」を素材とし、釉下彩(ゆうかさい)という技法で絵付けが施されています。

精ファイアンス(Faïence fine):これは18世紀半ばにイギリスのクリームウェアの影響を受けてフランスで発展した陶器で、従来のファイアンス(錫釉陶器)に比べて素地が薄く軽く、磁器に近い白色度を持つことが特徴です。「フィーヌ(fine)」は「上質」を意味し、当時のブルジョワジーの需要に応える形で普及しました。

釉下彩(Underglaze decoration):素焼きされた陶器の表面に絵付けを施した後、その上から透明な釉薬をかけて焼き上げる技法です。この技法により、絵具が釉薬によって保護されるため、絵柄が剥がれにくく、光沢のある透明感のある仕上がりが得られます。アンリ・ランベールは、この技法を用いて緻密な手描きの絵付けを行いました。


作品の意味

「平皿 藤沢」は、単なる食器としてだけでなく、19世紀後半のフランスにおけるジャポニスムの潮流と、それに伴う芸術と生活様式の変化を象徴する意味を持っています。

  • 異文化への憧れと再解釈: 日本の浮世絵から着想を得た「藤沢」の風景は、当時のヨーロッパ人が日本に対して抱いていたエキゾチックな魅力や美意識を具現化したものです。必ずしも日本の伝統的な色彩や構図を完全に踏襲するのではなく、フランス独自の解釈やアレンジが加えられている点に、当時のジャポニスムの特徴が表れています。例えば、日本の浮世絵では見られないような季節感の組み合わせが見られることもあります。
  • 日常への芸術の浸透: 本作品のようなテーブルウェアは、それまで宮廷や貴族の特権であった芸術を、勃興するブルジョワジーの日常生活へと広げました。食器という身近な存在に、絵画的な美意識を取り入れることで、生活空間そのものを芸術的に装飾しようとする時代の志向を反映しています。
  • 装飾美術の革新: 日本美術に見られる非対称性や余白を活かした構図、斬新なモチーフの選択は、当時のヨーロッパの装飾美術に新たな視点をもたらし、その後のアール・ヌーヴォーなど、近代デザインの発展に間接的な影響を与えたと考えられています。

評価と影響

「セルヴィス・ランベール=ルソー」は、先行する「セルヴィス・ルソー」と同様に、当時のジャポニスムのブームの中で高い人気を博しました。 特に手描きによる「セルヴィス・ランベール」は、その絵画性の高さと希少性から、美術的な価値が非常に高く評価されています。 現存する数が少ないため、オルセー美術館をはじめとする主要な美術館が近年積極的に収集を進めてきた重要なコレクションの一つです。

この作品は、1867年以降のパリ万国博覧会で繰り返し紹介され、ヨーロッパにおけるジャポニスムの広がりと陶磁器デザインの発展に大きく貢献しました。 また、「オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語」展のように、印象派絵画における「室内」というテーマや、当時の芸術家たちの生活、そして日本美術が与えた影響を検証する展覧会において、重要な展示品として取り上げられる機会が多く、後世の研究や美術鑑賞に多大な影響を与え続けています。