アンリ・ランベール(絵付) ウジェーヌ・ルソー(企画販売) Henri Lambert (decorator) Eugène Rousseau (produced by)
オルセー美術館所蔵「セルヴィス・ランベール=ルソー」より平皿 燕
本作品は、1873年から1875年頃に制作された「セルヴィス・ランベール=ルソー」と題された食器セットの一部である「平皿 燕」です。陶器商ウジェーヌ・ルソーが企画販売し、絵付師アンリ・ランベールが絵付けを手がけました。現在、「オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語」展にて展示されています。
この作品は、19世紀後半のフランスで一大流行した「ジャポニスム」(日本趣味)の影響を強く受けています。企画販売元のフランソワ=ウジェーヌ・ルソーは、1855年に父から陶器店を受け継いだ後、日本のデザインに強い関心を持ち、フランスの工芸家たちと協力して日本的な意匠の工芸品を数多く手掛けていました。彼は特に、フランスのガラス工芸分野におけるジャポニスムの流行に貢献しています。
ルソーは、1866年に版画家フェリックス・ブラックモンとの共同制作による「セルヴィス・ルソー」を発表し、葛飾北斎の『北斎漫画』や歌川広重の『魚づくし』に描かれた動物などをモチーフにした食器セットで、1867年のパリ万国博覧会で大きな成功を収めました。 この成功を受けて、ルソーはさらに新たなジャポニスム様式のテーブルウェアの制作を求め、1873年にセーヴル国立製陶所の装飾画家であったアンリ・ランベールに制作を依頼しました。
「セルヴィス・ルソー」が主に銅版転写による絵付けであったのに対し、「セルヴィス・ランベール」または「セルヴィス・ランベール=ルソー」は、一枚一枚手描きによる高級品として制作され、絵画性の高いデザインが特徴とされています。 これらの食器は、当時のフランスの室内空間に自然を取り込む装飾美術の一環として制作され、印象派の画家たちが室内装飾用のオブジェを手掛けたのと同じように、生活空間に彩りを与えることを意図していました。
本作品は「陶器(精ファイアンス)、釉下彩」という技法と素材が用いられています。 「ファイアンス」とは、繊細な淡黄色の素地に錫釉(すずぐすり)をかけた陶磁器を指し、絵付けに適した白い下地を作り出すことができました。 「精ファイアンス」は、18世紀半ばのフランスでイギリスのクリームウェアに倣って作られ始めた、きめ細かな素地を持つ上質な陶器であり、白色あるいは象牙色の素地に薄い透明釉を施し、低温で焼成されたものです。
「釉下彩」とは、陶器に絵付けを施した後、その上から透明な釉薬をかけて焼き上げる技法です。これにより、絵柄が釉薬の層によって保護され、器の表面が滑らかに仕上がります。 この手描きによる精緻な絵付けは、「セルヴィス・ランベール」の希少価値を高める要因となっています。
この平皿に描かれた「燕」のモチーフは、日本の絵画、特に北斎や広重、暁斎らの作品から着想を得ています。 日本美術に頻繁に登場する花鳥風月は、当時のヨーロッパの芸術家たちに斬新なインスピレーションを与え、彼らはその図柄や意匠を自らの作品に借用しました。 燕は、春の訪れや幸福、良い知らせの象徴とされることも多く、自然の生命力や季節の移ろいを表現する日本の伝統的なモチーフが、フランスの食卓に雅な趣をもたらしました。これは、単なる食器としてだけでなく、室内を彩る芸術品としての意味合いも持ち合わせていたことを示しています。
「セルヴィス・ルソー」の成功は、ファイアンスにおけるジャポニスムの先駆けとなり、その後の陶磁器デザインに大きな影響を与えました。 そして、「セルヴィス・ランベール=ルソー」は、その人気を受けて企画された高級品であり、手描きによる絵画的な表現は、当時のジャポニスムにおける装飾美術の多様性を示すものとして評価されています。
この食器セットは、オルセー美術館が約150点を所蔵しており、美術史におけるその重要性を示しています。 また、本作品が「オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語」展で紹介されていることは、印象派の画家たちが戸外の風景だけでなく、室内空間や装飾美術にも関心を抱いていたという、従来のイメージとは異なる側面を伝える上で重要な役割を果たしています。 「セルヴィス・ランベール」は、日本初公開の機会もあり、その希少価値と美術史的意義が改めて認識されています。