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「セルヴィス・ルソー」より平皿 夏菊に雀 Plate with Chrysanthemum and Sparrow from the "Rousseau" Service

フェリックス・ブラックモン (図案・版刻) ウジェーヌ・ルソー(企画販売) Félix Bracquemond (designer) Eugène Rousseau (produced by)

オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語 出展作品紹介:フェリックス・ブラックモン、ウジェーヌ・ルソー「セルヴィス・ルソー」より平皿 夏菊に雀

作品の背景と経緯、制作意図

この作品は、1867年頃に制作された「セルヴィス・ルソー」と呼ばれる食器セットの一部であり、フランスにおけるジャポニスム(日本趣味)の初期の重要な作例として知られています。企画販売を担ったのは、陶磁器とガラス製品の製造販売業者であったウジェーヌ・ルソー、そして図案と版刻を手がけたのは画家・版画家であるフェリックス・ブラックモンです。

1860年代には東洋美術、特に日本美術がフランスに流入し始め、ブラックモンは早い時期から日本芸術に強い関心を持っていました。彼は、日本の主要な輸出品であった磁器の梱包材に使われていた葛飾北斎の『北斎漫画』を偶然発見し、その芸術的価値に魅了されたという逸話が残されています。 ブラックモンは『北斎漫画』や歌川広重の浮世絵などを研究し、これらの日本版画から着想を得て、鳥や花、魚などをモチーフにした約120種類の食器をデザインしました。

ウジェーヌ・ルソーは1866年にブラックモンにこの日本版画の図柄を用いた食器セットの制作を依頼しました。 この「セルヴィス・ルソー」は、当時のフランスでは珍しかった左右非対称性や大きな余白といった日本美術の要素を大胆に取り入れています。 これは、従来の西洋陶磁器のデザインとは一線を画し、実用品であった陶器に新たな芸術的価値をもたらすことを意図していました。 また、この食器は日々の生活で用いられることを想定し、低コストでの生産も考慮されていました。

技法と素材

「セルヴィス・ルソー」の平皿は、精ファイアンス(陶器)を素材としています。 制作には、銅版転写と絵付、そして釉薬が用いられました。

銅版転写は、銅製の板に鉄筆で画線を刻み、そこに絵具を摺り込み、印刷機で印刷した紙を器面に貼って絵具を転写する技法です。 ブラックモンはエッチングという版画技法で下絵を制作しました。 彼が描いた絵柄を紙に刷り、それをパーツごとに切り取って白いファイアンス陶器に配置し、窯に入れます。 高温の窯の中で紙が燃えてなくなり、絵の輪郭線だけが陶器に残ります。 その後、職人によって鮮やかな色が絵付けされ、再び焼成されることで完成します。 この銅版転写の技法は、絵付けに熟練を必要とせず、大量生産に適しているという特徴があります。

本作品「夏菊に雀」では、皿の縁には紺や水色の刷毛目模様があしらわれており、これは当時のフランスやイギリスの磁器の伝統的なデザイン要素を取り入れたものです。

作品の意味

作品名にある「夏菊に雀」のモチーフは、日本美術において古くから親しまれてきた花鳥画の題材です。菊は長寿や高貴さを象徴し、雀は福を招く鳥として吉祥の意匠として用いられてきました。 ブラックモンは、日本の版画に見られるこれらの動植物のモチーフを、従来の西洋絵画にはなかった構図の妙や題材の多様性として捉え、積極的に取り入れました。 日本版画からの引用は、単なる異国趣味に留まらず、西洋美術の伝統的な視覚表現に変革をもたらすものでした。特に、左右非対称な構図や余白の美は、当時の西洋美術に新たな表現の可能性を示唆しました。

評価と影響

「セルヴィス・ルソー」は、1867年のパリ万国博覧会に出品され、大評判となりました。 その後も1878年、1898年のパリ万博で紹介され、多くの受注を獲得し、1930年代初頭まで50年以上にわたって継続的に生産される人気シリーズとなりました。

この食器セットは、装飾美術において日本美術のモチーフが引用された最初の作例の一つとされており、ジャポニスムにおいて重要な位置を占めています。 ブラックモンの作品は、それまで実用品でしかなかった陶器を、価値を持ち珍重される芸術品へと高めることに貢献しました。 彼はエドゥアール・マネやエドガー・ドガといった印象派の芸術家とも親交があり、日本美術愛好家による親善団体「ジャングラールの会」にも参加し、ジャポニスムの普及に貢献しました。 この作品が示した日本美術からの影響は、絵画、ガラス工芸、銅版画など、幅広い分野でジャポニスムの発展を促し、後のアール・ヌーヴォーの誕生にも繋がる土壌を形成することとなりました。 オルセー美術館でも「セルヴィス・ルソー」は数点常設展示されており、その歴史的価値が認められています。