フェリックス・ブラックモン(図案・版刻) ウジェーヌ・ルソー(企画販売) Félix Bracquemond (designer) Eugène Rousseau (produced by)
作品紹介記事:オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語
この「セルヴィス・ルソー」は、陶器・ガラス製品の販売業者であったウジェーヌ・ルソーの依頼を受け、画家・版画家フェリックス・ブラックモンが図案を手掛け、1866年頃に共同制作されたテーブルウェアです。作品の意図は、当時フランスで高まりつつあった「ジャポニスム(日本趣味)」の流行を反映した、新しい様式の食器を創出することにありました。ブラックモンは1858年に『北斎漫画』を発見し、日本の木版画に深い影響を受けており、その革新的な視覚言語をヨーロッパ美術に取り入れようと試みました。特に歌川広重の連作『魚づくし』(1830~40年代制作)や葛飾戴斗の花鳥画など、日本の浮世絵から着想を得ており、それまでフランスではよしとされなかった左右非対称性や大きな余白といった要素を大胆に取り入れています。これは、実用品であった陶器に芸術的な価値を与え、新興ブルジョワジーのステータスシンボルとなることを目指したものでした。
本作品は1867年頃に制作され、素材には淡黄色を帯びた土の上に錫釉(すずゆう)をかけた「ファイアンス陶器(精ファイアンス)」が用いられています。 特徴的な技法として、銅版転写と絵付け、そして釉薬が挙げられます。 ブラックモンが描いた絵柄は、まず銅版で紙に印刷され、その紙をパーツごとに切り取って白いファイアンス陶器の素地に配置されました。その後、高温の窯に入れることで紙は燃えなくなり、絵の輪郭線が陶器に残ります。 続いて職人たちが鮮やかな色を手で絵付けし、再び焼成することで完成します。 銅版転写は、絵付けに熟練を要しない簡便さから大量生産に適しており、低コストで芸術性の高い製品を生み出すことを可能にしました。 皿の縁には、当時のフランスとイギリスの磁器に伝統的な紺や水色の刷毛目模様が施されています。
「セルヴィス・ルソー」は、日本の浮世絵から着想を得た動植物のモチーフを、従来のヨーロッパの陶磁器には見られなかった非対称な構図と余白を活かして配置することで、西洋に「ジャポニスム」の美意識を広めた初期の重要な作品群の一つです。 特にこの「平皿 山女」に見られる自然主義的な表現は、当時のフランス人にとって日本の版画が持つ斬新な視覚言語として映りました。約100点にも及ぶ食器セットは、それぞれの器に異なる柄が描かれているという日本的なアイデアも取り入れられています。 当時、実用品でしかなかった陶器に新たな芸術的価値をもたらし、芸術品としての陶器の地位向上にも貢献しました。
「セルヴィス・ルソー」は1867年のパリ万国博覧会で紹介され、大成功を収めました。 その後も1878年、1898年のパリ万国博覧会で続けて展示され、1930年代まで50年以上にわたり継続的に生産されるほど高い人気を博しました。 象徴派の詩人ステファヌ・マラルメは、1871年にこのセットを「これまで目にしたものの中で最も美しい食器だ」と評しています。 この作品は、陶芸だけでなく、広くヨーロッパ全体にジャポニスムの流行をもたらす重要な役割を果たしました。 その成功を受け、ウジェーヌ・ルソーは1873年には別の画家アンリ・ランベールにもジャポニスムをテーマにしたテーブルウェア「セルヴィス・ランベール」の製作を依頼しています。 オルセー美術館は、19世紀フランスにおけるジャポニスムを検証する上で欠かせないこのテーブルウェアの収集を進めており、現在では数多くの作品を所蔵し、常設展示しています。