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「セルヴィス・ルソー」より平皿 芥子にだぼはぜ Plate with Poppy and Goby from the "Rousseau" Service

フェリックス・ブラックモン (図案・版刻) ウジェーヌ・ルソー(企画販売) Félix Bracquemond (designer) Eugène Rousseau (produced by)

オルセー美術館所蔵「印象派―室内をめぐる物語」展に展示されている、フェリックス・ブラックモンが図案・版刻を手がけ、ウジェーヌ・ルソーが企画販売した「セルヴィス・ルソー」より「平皿 芥子にだぼはぜ」は、19世紀後半のフランスにおける陶磁器デザインと芸術運動の重要な接点を示す作品です。

制作の背景と経緯

この作品は、1867年頃に制作されました。「セルヴィス・ルソー」は、日本の美術、特に浮世絵からインスピレーションを受けた「ジャポニズム」と呼ばれる芸術運動がフランスで隆盛を極めていた時期に生まれました。フェリックス・ブラックモンは、版画家として早くから日本の版画に魅了され、その構図や自然描写に強い関心を持っていました。彼は、フランスで初めて日本の版画(葛飾北斎の『北斎漫画』)を目にし、それらを自身の作品に取り入れようと試みた先駆者の一人です。ウジェーヌ・ルソーは、このブラックモンのデザインに着目し、自身の陶磁器工房を通じて「セルヴィス・ルソー」として製品化しました。これは、当時のヨーロッパの陶磁器デザインにおいて主流であった古典的な様式とは一線を画し、日常の生活に日本の美意識と自然主義を取り入れようとする画期的な試みでした。

技法と素材

本作品は、陶器(精ファイアンス)を素材としています。制作には、銅版転写と絵付け、そして釉薬が用いられています。まず、ブラックモンが手がけた繊細な図案が銅版に刻まれ、その版から転写紙を用いて陶器の素地に絵柄が写し取られました。この転写技術により、複雑なデザインの量産が可能となりました。その後、転写された輪郭に沿って、絵の具(エナメル)で手作業による絵付けが施され、色彩豊かな表現が実現されています。最後に、全体に釉薬がかけられ、高温で焼成されることで、耐久性と美しい光沢が与えられました。この銅版転写と手描き絵付けの組み合わせは、当時としては高度な技術であり、美術的な表現と実用性を両立させる手段として注目されました。

作品の意味

「平皿 芥子にだぼはぜ」に見られる「芥子(ポピー)」と「だぼはぜ(ゴビー)」というモチーフは、日本の版画に見られるような、身近な動植物を主題とする自然主義的な表現に由来しています。当時のヨーロッパの陶磁器では、異国の風景や物語、あるいは象徴的な意味を持つ動植物が描かれることが一般的でしたが、ブラックモンは日本の浮世絵が持つ「花鳥画」の伝統に着想を得て、特定の物語性を持たない、純粋な自然の断片を食器の上に配置しました。アシンメトリーな構図や、余白を活かした配置もまた、日本の美意識の影響を色濃く示しています。これは、装飾過多な従来のスタイルから脱却し、シンプルで洗練された美を追求する動きの一環でした。

評価と影響

「セルヴィス・ルソー」は、1867年のパリ万国博覧会で発表され、その革新的なデザインで大きな注目を集めました。日本の美術から直接的なインスピレーションを得た、大胆かつ繊細なこの作品群は、フランスにおけるジャポニズムの確立に決定的な役割を果たしました。このサービスは、マネ、ドガ、ファンタン=ラトゥールといった印象派の画家たちにも影響を与え、彼らが日本の版画から受けた刺激を絵画表現に取り入れるきっかけの一つになったとも言われています。ブラックモンとルソーによるこの試みは、陶磁器という日常的な媒体を通じて、東洋の美意識とヨーロッパの芸術が融合する可能性を示し、その後のアール・ヌーヴォーなどのデザイン運動にも間接的な影響を与えたと評価されています。