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大きなデルフト陶器にいけられたダリア Dahlias in a Large Delft Vase

ポール・セザンヌ Paul Cézanne

ポール・セザンヌ 《大きなデルフト陶器にいけられたダリア》:印象派の萌芽と近代絵画への架け橋

オルセー美術館所蔵「印象派―室内をめぐる物語」展で紹介されているポール・セザンヌの《大きなデルフト陶器にいけられたダリア》は、1873年頃に油彩でカンヴァスに描かれた作品です。この絵画は、セザンヌの画業における重要な転換期を示すものとして位置づけられています。

制作背景と意図

本作が描かれた1873年頃は、印象派の最初のグループ展が開催される直前の時期にあたります。この頃のセザンヌは、「印象派の父」とも称されるカミーユ・ピサロと親交を深め、自身の初期の重厚な画風から、色彩を重視する印象派的な表現へと移行しつつありました。静物画はセザンヌにとって生涯にわたる重要なテーマであり、造形的な実験の場として位置づけられていました。彼は、単に対象を再現するのではなく、画面空間の秩序を再構築し、「見ることの本質」を探求することを目指しました。デルフト陶器の持つ落ち着いた藍色の模様と上品な佇まいは、ダリアの花々を引き立て、セザンヌが好んで描いたモチーフの一つであったことがうかがえます。

技法と素材

作品の素材は油彩とカンヴァスです。この絵画には、ダリアの暖色とデルフト陶器の寒色の補色対比によって鮮やかな装飾性が生み出されています。セザンヌの筆致は、印象派の画家たちが用いた筆触分割や視覚混合とは異なり、細かなタッチで色を配置しています。その中には、ごくわずかながらも後の形状構成主義的な傾向が見て取れ、この時期すでにセザンヌ独自の個性が表れていると言えるでしょう。また、作品全体にはセザンヌらしい堅牢なタッチが特徴的に現れています。彼は一つの画面に複数の視点を取り入れる試みを行い、対象の量感や質感を捉える視点の移動を絵画に落とし込もうとしました。

作品が持つ意味

《大きなデルフト陶器にいけられたダリア》は、セザンヌが印象派の影響を受けつつも、彼自身の造形的な探求へと向かう過程を示す作品です。色彩による構成の実験を通して、彼は対象物の本質的な姿を捉えようとしました。静物画において、セザンヌは単なる写実を超え、画面内の要素が持つ関係性や空間そのものを再構築する試みを行いました。この作品に見られるわずかながらも後のキュビスムに通じる構成的な要素は、彼が「近代絵画の父」と呼ばれる所以の一端をすでに示していると言えます。

評価と影響

この作品が制作された頃のセザンヌの絵画は、画材屋のタンギー爺さんの店でフィンセント・ファン・ゴッホが目にし、その厚塗りの技法に共通点を見出して称賛したと言われています。セザンヌは、後にパブロ・ピカソから「近代絵画の父」と称されるように、印象派からキュビスムへの架け橋となる独自の理論と実験を通じて新たな画境を開拓しました。彼の絵画は、後の世代の画家たちに大きな影響を与え、美術史において革新的な存在として評価されています。セザンヌの作品は、具体的な描写でありながらも容易には読み解けない深奥さを持ち、その尽きることのない謎が現代に至るまで研究者や鑑賞者の興味を引きつけ続けています。