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花 Flowers

マリー・ルイーズ・ヴィクトリア・デュブール Marie Louise Victoria Dubourg

マリー・ルイーズ・ヴィクトリア・デュブール《花》

本作品は、フランスの画家マリー・ルイーズ・ヴィクトリア・デュブールが手がけた油彩画《花》であり、「オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語」展にて紹介されています。油彩/カンヴァスという技法で制作されたこの作品は、国立西洋美術館に所蔵されています。

制作背景・経緯・意図

マリー・ルイーズ・ヴィクトリア・デュブール(1840-1926)は、フランスの画家アンリ・ファンタン=ラトゥールの妻であり、自身も肖像画や花、果物の静物画を専門とした画家として活動しました。彼女は1860年代初頭から肖像画や花の静物画を制作し、エドゥアール・マネ、ベルト・モリゾ、エドガー・ドガといった進歩的な芸術家たちと交流がありました。1866年にはルーヴル美術館で作品を模写中にファンタン=ラトゥールと出会い、1876年に結婚しています。

「オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語」展では、印象派の画家たちが室内空間へ向けた関心に焦点を当てています。花の静物画は、伝統的に室内を彩る装飾として描かれてきた題材であり、身近な主題であったことから、ヴィクトリア・デュブールのような女性画家にとっても取り組みやすく、名声を得る機会となりました。本作品は、画家が花に抱いていた深い愛情を表現する意図のもと制作されたと考えられています。

技法・素材

作品は油彩/カンヴァスで描かれています。デュブールは、花瓶に生けられたグラジオラス、アネモネ、菊、ダリア、カーネーション、マリーゴールド、金魚草など、多種多様な花々を繊細な色彩で描写しています。彼女の色彩感覚は非常に優れており、豊かな色合いによって花々の鮮やかさを表現し、作品全体に生命感を与えています。特に、花びらの微細な色の変化や光の反射は、写実的な印象を与えます。

構図においては、画面の中に花々がバランス良く配置され、視覚的な興味を惹きつけるものとなっています。花びらの細かい質感や葉の微細な脈まで精緻に描き込むことで、作品に深いリアリズムが生まれています。また、光と影の巧みな表現により、花々が立体的に描かれ、視覚的な奥行きが感じられます。デュブールの初期の作風は、夫ファンタン=ラトゥールの作品と類似し、多くの場合、暗い背景に劇的に照らされた花々が特徴的でした。しかし、後に筆致はより自由になり、きらめくような、ベルベットのような効果を生み出しました。

意味・評価・影響

ヴィクトリア・デュブールの作品は、彼女が活動していた19世紀末のフランス美術界において高く評価されました。特に《花》は、彼女の静物画における卓越した技術と感性を示すものであり、同時代の他の画家と比較しても高い品質を持つとされています。この作品は、自然の美しさを賛美し、それを芸術として昇華させる画家の力を示しています。

デュブールは1869年からサロン・ド・パリに出展し、1894年に佳作、1895年にはメダルを受賞しました。1920年にはレジオンドヌール勲章シュヴァリエを受勲するなど、その功績が認められています。彼女の花の絵は、写実主義と豊かな表現を融合させたものであり、後の静物画の発展に大きな影響を与えたと考えられています。

本作品は実業家・松方幸次郎氏によって購入された後、1944年にフランス政府によって接収され、1959年にフランス政府から日本政府に寄贈返還され、国立西洋美術館のコレクションに加えられました。これは、作品が歴史的な変遷を経て、今日までその価値が認められてきた証でもあります。