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花 Flowers

マリー・ルイーズ・ヴィクトリア・デュブール Marie Louise Victoria Dubourg

マリー・ルイーズ・ヴィクトリア・デュブール作「花」は、1908年に油彩でカンヴァスに描かれた作品です。本作品は「オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語」展に出品されています。

アーティストの背景と制作意図

本作の作者であるマリー・ルイーズ・ヴィクトリア・デュブールは、1840年にパリで生まれ、1926年にビュレで没したフランスの画家です。彼女は静物画、特に花や果物の描写に長けていました。デュブールは画家ファニー・シェロンに師事し、ルーヴル美術館で巨匠たちの作品を模写している最中にアンリ・ファンタン=ラトゥールと出会い、1876年に結婚しました。エドゥアール・マネ、ベルト・モリゾ、エドガー・ドガといった画家たちの交流圏に属し、ドガは1868年から1869年頃に彼女の肖像画も描いています。デュブールは1868年から1902年にかけてフランス芸術家協会展(サロン・デ・ザルティスト・フランセ)に定期的に作品を出品し、1894年には佳作、1895年にはメダルを獲得しました。また、ロンドンのロイヤル・アカデミーでも展示を行い、1920年にはレジオンドヌール勲章シュヴァリエを受章するなど、当時を代表する重要な女性画家の一人として認められていました。

夫であるファンタン=ラトゥールと共同で花を描くこともありましたが、批評家からは、初期の作品から独自のスタイルを確立しており、夫の単なる模倣ではないと評価されています。 1904年に夫が亡くなった後、デュブールは彼の回顧展の開催や作品目録の作成に多大な時間を費やし、それが自身の創作活動に影響を与えた時期もありました。しかし、夫の死後、彼女の作品はよりしなやかで自由な筆致と鮮やかな色彩を特徴とするようになります。1908年に制作された本作「花」も、この時期の表現の変化を示す作品の一つであると考えられます。 本展覧会のテーマである「室内をめぐる物語」に鑑みても、デュブールが得意とした花は、近代の生活における室内空間に自然を取り入れるという、印象派の画家の関心を示すものとして位置づけられます。

技法と素材

「花」は油彩でカンヴァスに描かれています。デュブールの作品は、細部にこだわるよりも、光と影のコントラストや効果に焦点を当て、調和の取れた花の構図を作り出すことを特徴としています。 彼女の筆致は、特に1904年以降、よりしなやかで自由になり、色彩は鮮やかさを増しました。 夫のスタイルとは一線を画し、時には日本の浮世絵から着想を得た表現も見られるなど、独自の画風を確立しています。

作品の持つ意味

静物画における花は、自然の儚い美しさや家庭内の穏やかさを象徴するとともに、光と色彩の探求の対象として描かれることが多くあります。本展覧会の「室内をめぐる物語」というテーマにおいて、デュブールの「花」は、室内空間における自然の存在、すなわち近代生活における日常の一場面を豊かに彩る要素として提示されていると言えるでしょう。 批評家たちは、彼女の描く花が「語り、呼吸しているよう」だと評し、その生命感あふれる描写を高く評価しました。

評価と影響

マリー・ルイーズ・ヴィクトリア・デュブールは生前から高い評価を得ており、初期の20世紀には「今日の最も重要な女性画家の一人」と称されていました。 本作「花」が、マネ、ドガ、モネ、ルノワール、セザンヌといった主要な印象派画家の作品と共に「オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語」展に選ばれていることは、室内画というテーマにおける彼女の作品の重要性を示しています。 本展覧会が「印象派のもうひとつの魅力」を提示しようとしている中で、デュブールの「花」は、その独自の視点と表現力で、印象派における室内空間の描写の多様性を示す貴重な作品として位置づけられています。