トーネット兄弟社 Thonet Frères
オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語に出展されているトーネット兄弟社の「寝椅子 No. 2」は、19世紀半ばにミヒャエル・トーネットが開発した画期的な「曲木(まげき)加工」技術によって生み出された家具です。1887年以前に原型が作られたとされるこの寝椅子は、ブナ材を蒸気で曲げ、桜材色に着色し、座面は籐張りで仕上げられています。 [作品詳細]
制作背景と意図 トーネット兄弟社は、1819年にミヒャエル・トーネットによって設立されたドイツの家具メーカーであり、世界で初めて大量生産・マスプロダクト生産を実現した企業としても知られています。 ミヒャエル・トーネットは、1830年代に木材を蒸気で加熱して柔らかくし、型枠に沿って曲げて固定する「曲木加工」の技術を開発しました。 この技術は、従来の重厚な彫刻家具とは異なり、エレガントで軽く、丈夫な家具を効率的に生産することを目的としていました。 1853年には、ミヒャエル・トーネットが5人の息子に事業を譲渡し「トーネット兄弟社(Gebrüder Thonet GmbH)」へと社名を変更。 1857年には工場をオーストリアからチェコに移転し、安価な労働力とブナ材の供給源を確保したことで、世界初の家具量産工場が誕生しました。 「寝椅子 No. 2」は、こうしたトーネット社の量産技術の初期の成果を示すモデルの一つとされています。
技法と素材 「寝椅子 No. 2」に用いられている主要な技術は、ミヒャエル・トーネットが確立した「曲木加工」です。これは、ブナなどの木材を高温の蒸気で蒸して細胞壁を柔らかくし、特定の形状の型枠や治具にセットして力を加えながら曲げ、乾燥させることでその形を固定するというものです。 作品詳細にある通り、素材には「ブナ材、曲木加工、桜材色の着色」が施されており、座面は「籐張り」で仕上げられています。 [作品詳細] ブナ材は、その可塑性と粘り気が曲木に適しているとされ、トーネットの家具に広く用いられました。
作品の持つ意味 トーネット兄弟社の家具は、単なる実用品にとどまらず、近代家具の歴史を大きく変えるきっかけとなりました。 「寝椅子 No. 2」に見られる曲線のデザインは、当時の家具に革新をもたらし、簡素で機能的ながらも優雅さを兼ね備えた新しい美学を提示しました。 部品を分解して輸送し、現地で組み立てるノックダウン方式を採用するなど、コスト削減と大量輸送を両立させた画期的な生産・流通モデルは、今日の家具産業の基礎を築いたと言えます。 この寝椅子がオルセー美術館所蔵の「印象派―室内をめぐる物語」展に選ばれたことは、当時の室内空間における重要な装飾美術品としての価値と、印象派の時代における生活様式や美意識との関連性を示唆しています。
評価と影響 トーネット兄弟社の曲木家具は、その革新性とデザイン性により世界中で高い評価を受けました。1851年のロンドン万国博覧会への出品を皮切りに、国際的な注目を集め、1867年のパリ万国博覧会では金メダルを受賞しています。 特に「No. 14」(現在の「214」)などの椅子は「椅子の中の椅子」と称され、1930年までに5000万脚以上を売り上げる大成功を収めました。 トーネットの技術とデザイン思想は、20世紀の家具デザインにも大きな影響を与え、バウハウスのデザイナーたちによるスチールパイプ家具の製造にも貢献しました。 現代においても、トーネットの家具は時代を超えた普遍的なデザインと確かな機能性を持つマスターピースとして、世界中で愛され続けています。 ル・コルビュジエが「No. 209」を愛用し「コルビュジエ・チェア」と呼ばれるなど、多くの著名な建築家やデザイナーにも影響を与えました。