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大きな裸婦 Large Nude

ピエール=オーギュスト・ルノワール Pierre-Auguste Renoir


### オルセー美術館所蔵 ピエール=オーギュスト・ルノワール「大きな裸婦」

本作品「大きな裸婦」は、フランスの印象派を代表する画家、ピエール=オーギュスト・ルノワールが1907年に制作した油彩画です。オルセー美術館に所蔵されており、「オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語」展に出品されています。

制作背景と意図

ルノワールは生涯を通じて女性の裸体画を好んで描きましたが、特に晩年にはその主題に強く執着しました。本作品が制作された1907年頃、画家はリュウマチ性関節炎や顔面神経痛を患い、体調が著しく衰えていました。両手が麻痺しつつある状況でありながらも、彼は創作意欲を失わず、絵筆を手に巻き付けて制作を続けました。

この時期のルノワールは、初期の印象派的な表現から脱却し、古典美術、特にルーベンスやティツィアーノといった巨匠たちの作品に連なる、豊満で肉感的な裸婦像を探求していました。 「大きな裸婦」は、1903年から1907年にかけて制作された、クッションにもたれかかる横たわる裸婦の連作の中で、最も完成度が高いとされる作品の一つです。

技法と素材

素材は油彩、カンヴァスです。ルノワールは晩年の裸婦画において、鮮やかな色彩の筆触を並べる印象派の技法から、下地に透明色の絵具を薄く塗り重ねる「グラッシ」と呼ばれる伝統的な描法へと移行しました。 これにより、整然とした画肌と、光を浴びた身体の柔らかな質感、そして彫塑的なボリューム感が表現されています。

本作品では、明るい色彩と温かい光が裸婦の身体を包み込み、肌は健康的な輝きを放っています。 パレットは明るく微妙なトーンに制限され、鑑賞者に柔らかな安心感を与える自然体な姿態で描かれています。 また、ルノワールは影に茶色や黒を使わず、周囲の反射光を取り入れたカラフルな色を用いる独自の色彩理論を持っていました。

作品の意味

「大きな裸婦」に描かれた女性は、わずかな白布を股に挟みながら横長の画面中央に横たわっており、緊張感のない自然な姿態を見せています。 その豊満な身体からは、ルノワール作品特有の肉体的女性美と、画家が裸婦に対して抱いていた強い執着が感じられます。 やや澄ました表情には古典的な美の系譜がみられ、一部の批評家からは新古典主義の巨匠ジャン=オーギュスト・ドミニク・アングルとの関連性が指摘されることもありました。 この作品は、ルノワールが追求した理想的な女性像、すなわち生命の豊かさと官能性を象徴しています。

評価と影響

ルノワールの晩年の裸婦像は、制作当時から賛否両論がありました。一部の批評家からは「巨大で太った赤い女性たち」といった批判的な意見もありました。 しかし、その一方で、パブロ・ピカソやアンリ・マティスといった20世紀の芸術家たちは、ルノワールの晩年の裸婦作品からインスピレーションを受け、彼のスタイルをモダニズムの父として高く評価しました。

オルセー美術館では、ルノワールの初期の作品から、晩年の「浴女たち」(1918-1919年)に至るまでの発展を、「大きな裸婦」が理解する上で重要な位置を占めると説明しています。 ルノワールは、生涯を通じて「美しさ」を追求し続けた画家であり、彼の作品は温かみと柔らかさをもって、今もなお多くの人々に愛され続けています。