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読書する少女 The Reader

ピエール=オーギュスト・ルノワール Pierre-Auguste Renoir

オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語

ピエール=オーギュスト・ルノワール作 「読書する少女」

本作品「読書する少女」は、1874年から1876年にかけて、フランスの印象派の画家ピエール=オーギュスト・ルノワールによって油彩でカンヴァスに描かれました。現在、パリのオルセー美術館に所蔵されています。

制作の背景と意図

ルノワールは生涯にわたり、読書する女性を主題とした作品を数多く手掛けています。本作に描かれているモデルは、1870年代半ばのルノワールの作品に頻繁に登場するモンマルトル出身のマルグリット・ルグラン、通称マルゴであるとされています。彼女は当時のルノワールのお気に入りのモデルであり、若くして病に倒れた際には画家が深く悲しんだと伝えられています。当時のパリでは、読書する人物が室内で過ごす情景は「新しい光景」あるいは「近代的な風俗」と捉えられ、マネやモリゾといった印象派の画家たちも好んで描いた主題でした。ルノワールは、18世紀の画家フラゴナールが描いた溌剌とした日常の人物表現に強く惹かれており、この作品でも、さりげない日常の一コマが捉えられています。画家の意図は、読書に没頭する女性そのものというよりも、読書という行為が与える印象を捉えることにあり、それを通して女性の存在感を描き出そうとしたと考えられています。

技法と素材

素材は油彩とカンヴァスが用いられています。本作は、ルノワールが印象派の技法を実験的に試みていた時期の作品です。彼は印象派の特徴である光の捉え方を巧みに用い、少女の顔や本の上に舞う光と影の移ろいゆく効果を見事に表現しています。筆致は繊細さと大胆さを兼ね備え、画面全体に動きと輝きを与え、まるで目の前で光景が展開しているかのような印象を与えます。 色彩においては、赤、白、黄、緑、青といった純粋な色相が採用され、全体的に温かみのある配色でまとめられています。特に、ルノワールが「血のめぐりのいい若い娘の肌が好きだ」と語ったように、少女の頬には透明感のある線状のタッチが重ねられ、下の色が透けて見えることで、内側から光を発しているかのような効果を生み出しています。衣装のレースや布地の質感も、緻密で微妙に変化する筆触の集積によって精緻に表現されています。

作品が持つ意味

「読書する少女」は、静けさと内省の雰囲気を醸し出しています。鑑賞者を過ぎ去った時代の郷愁とロマンティシズムへと誘い、外部の視線を気にすることなく本に夢中になる女性の親密な世界を映し出しています。画家は、この女性が独占する時間と空間に、まるで覗き見するように入り込み、作品全体に親密な雰囲気を漂わせています。この作品は「生き生きとしたフランス人女性」の好例とも評されています。

評価と影響

この作品は、ルノワールが描いた数ある読書する女性の絵画の中でも特に有名なものの一つとして認識されています。印象派運動の一環として制作され、移りゆく瞬間や光、色彩の効果を捉えることに重きを置いたルノワールの画風をよく示しています。ルノワールが光、色彩、そして束の間の瞬間を捉えることに傾倒したことは、その後の多くの芸術運動に大きな影響を与えました。彼の作品は日本でも広く知られ、親しみやすい画風から多くの愛好者を得ており、梅原龍三郎をはじめとする多くの画家に直接的・間接的な影響を与えています。