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この上ない幸福 Complete Happiness

アルフレッド・ステヴァンス Alfred Stevens

オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語

アルフレッド・ステヴァンス《この上ない幸福》

「オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語」展にて紹介されるアルフレッド・ステヴァンスの《この上ない幸福》は、1880年頃に油彩でカンヴァスに描かれた作品です。この絵画は、19世紀後半のパリ上流階級の生活を、細部にわたる写実的な描写で捉えています。

制作背景・経緯・意図

アルフレッド・ステヴァンス(1823-1906年)はベルギー出身の画家で、初期には社会的な写実主義の作品で注目を集めました。しかし、1850年代半ば以降、彼の作風は大きく転換し、優雅で洗練された現代の女性たちを豪華な室内空間に描くことを得意とするようになります。これは彼の代名詞ともなり、19世紀末のパリにおける上流階級の生活を記録した象徴的な作品群として位置づけられています。彼の作品は、当時の急速に近代化する社会の中で変化する女性の役割を反映し、内省や感情の束の間の瞬間を捉えることで、親密さと心理的な深さを伝えています。

本作のタイトルである「この上ない幸福」は、母と子が並び、その後ろで夫が仕事に没頭しているという情景に添えられており、ブルジョワジーの幸福観や家族のあり方に対するステヴァンスの観察や示唆が込められている可能性があります。 彼は自身の作品で描かれる華やかな生活とは裏腹に、経済的な困難に直面することもあったとされ、作品のタイトルには深い意味が込められていると解釈できます。

技法や素材

本作は油彩でカンヴァスに描かれています。ステヴァンスの技法は、17世紀オランダの風俗画の影響を受けた写実的なスタイルと、丹念な仕上げが特徴です。 彼は色彩に対する関心を深めるにつれて、そのパレットはより豊かで明るくなりました。 豪華なドレスや豊かな室内装飾、そして様々な素材に反射する光の表現など、細部への綿密な描写が見られます。

作品の持つ意味

《この上ない幸福》は、当時のパリの上流中産階級の女性たちの日常生活を描いた、ステヴァンスの典型的な作品の一つです。画面には、室内で過ごす現代的な女性の姿が捉えられています。 この作品は、近代化が進む社会における女性たちの自立した姿を映し出しているとも考えられます。

特に、母と子が正装して並ぶ一方で、夫が自身の仕事に没頭している構図と、「この上ない幸福」というタイトルとの対比は、作品に多層的な意味を与えています。この作品は、当時のブルジョワ家庭における理想的なイメージだけでなく、個人の内面や家族間の関係性、そして「幸福」という概念そのものについて観る者に問いかけるものです。

評価や影響

アルフレッド・ステヴァンスは、上流中産階級のパリの生活を描いた作品で批評的にも大衆的にも大きな成功を収めました。 彼は肖像画家として絶大な人気を誇り、サロンの常連として高い評価を受け、レジオンドヌール勲章も授与されています。

彼の作品は「19世紀末のパリ上流階級の生活を象徴的に記録したもの」と見なされています。 厳密には印象派の画家ではありませんが、ステヴァンスの精密な室内描写と現代生活への深い洞察は、印象派の画家たちが探求したテーマとも重なります。晩年には印象派の影響を受けた自由な筆致で海景画も描いており、彼の作品は「オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語」展のような、室内空間に焦点を当てた印象派の展覧会において、重要な位置を占めています。