エミール=オーギュスト・カロリュス=デュラン Émile-Auguste Carolus-Duran
オルセー美術館所蔵「印象派―室内をめぐる物語」展覧会にて紹介される、エミール=オーギュスト・カロリュス=デュランの作品「母と子(フェドー夫人と子どもたち)」は、1897年に油彩、カンヴァスの技法で制作されました。
この作品は、画家カロリュス=デュラン自身の娘であるマリアンヌ・カロリュス=デュラン(フェドー夫人)と、その子どもたちを描いたものです。フェドー夫人の夫ジョルジュ・フェドーは、劇作家であると同時に印象派やナビ派の作品を収集した人物として知られています。制作された19世紀末は、印象派が画壇の一角を占める勢力となっており、美術界の主流であるサロン画家たちの多くが、印象派の様式を部分的に取り入れつつアカデミスムとの折衷を試みていた時代でした。本作もまた、世紀末の公的な展覧会(サロン)に出品され、一般大衆の人気を集めた、いわゆる「サロン絵画」の典型的な作品の一つとされています。
カロリュス=デュランは、パリの上流階級の人々をスタイリッシュに描いた人物画で知られる画家であり、写実主義の代表的な存在です。彼はスペインの巨匠ディエゴ・ベラスケスの作品から強い影響を受け、その写実的で筆触の妙を効かせた油彩技法を高く評価していました。 本作では、対象の質感を手にとるように描き出す伝統的なアカデミックな技法と、印象派が多用した即興的な筆の運びとの折衷が見られます。特に、髪や顔はやや省略的に描かれつつも、真珠のネックレスなどは詳細に描写されており、舞台のスポットライトのような強い光の演出を感じさせます。
構図は、着飾った母と子の姿を三角形の中に収めており、フェドー夫人の黒い服と胸元の赤い花、女児の白い服と手にもつ淡黄色の花など、簡潔な色彩の対照がカロリュス=デュラン独自の特徴を示しています。19世紀フランス美術に影響を与えたスペイン趣味に由来する黒は、画家が好んだ色の一つであり、友人であるエドゥアール・マネもまた、黒のもたらす効果を愛したことが知られています。
この作品は、当時の物質的な恵みを享受するブルジョワ層が理想とした家庭的幸福の情景を伝えています。肖像画、特に「母と子」の主題は、家族愛、家族の絆の象徴であり、上流階級にとっては一族の繁栄や富の継承を示すものであったため、社会的ステータスの象徴として機能していました。
カロリュス=デュランは、ジョン・シンガー・サージェントらを指導した美術教師としても評価が高く、1904年にはレジオン・ドヌール勲章のグランド・オフィサーに、1905年にはローマのフランス学士院院長に任命されるなど、数々の功績を残しました。
「母と子(フェドー夫人と子どもたち)」は、実業家・松方幸次郎によって購入され、後にフランス政府による接収を経て、1959年にフランス政府から寄贈返還され、国立西洋美術館に所蔵されています。 本展覧会「オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語」は、印象派の画家たちが室内空間に向けた関心に焦点を当てており、本作は印象派の要素を取り入れたサロン絵画として、その文脈の中で展示されます。