オーディオガイド トップに戻る
0:00
0:00

室内の子どもと女性 Child and Woman in an Interior

ポール・マテ Paul Mathey

オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語

ポール・マテ作 「室内の子どもと女性」

本記事では、現在開催中の「オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語」展で展示されているポール・マテの油彩画、「室内の子どもと女性」についてご紹介します。

背景と制作意図

「室内の子どもと女性」は、フランスの画家ポール・マテによって1890年頃に制作された油彩画です。ポール・マテ(1844-1929)はパリで生まれ、国立高等美術学校でレオン・コニエらに師事しました。主に肖像画家として評価され、1868年のサロンでの初出品以来、1876年と1885年にはメダルを、1889年のパリ万国博覧会では金メダルを受賞し、同年にレジオンドヌール勲章も受章しています。彼の作風は写実主義に属するとされていますが、本作品は、戸外の風景が主流とされる印象派の時代において、「室内」というテーマに焦点を当てた本展の趣旨と深く関連しています。

この作品は、画家自身の家族の情景を描いたものと考えられています。画面右側には、後に美術史家となる画家の一人息子ジャック(1883-1975)が壁に寄りかかっており、左奥にはピンクのドレスを身につけた、おそらく画家の妻がアイロンがけに勤しんでいます。さらに開かれたドアの向こうには、屋外で掃除をする使用人の姿が見えます。

技法と素材

本作はカンヴァスに油彩で描かれており、縦48.5センチメートル、横38.0センチメートルというサイズです。ポール・マテは、構図において「空間的なグラデーション」という技法を用いています。手前から奥へと続く連続した複数の平面を巧みに配置することで、鑑賞者の視線をアパルトマンの室内からさらに外部へと導く効果を生み出しています。室内は全体的に落ち着いた雰囲気ですが、子どもが立つ背後の花柄の壁紙が唯一の華やかな要素となっています。

作品の持つ意味

この作品には、単なる家庭生活の描写を超えた象徴的な意味が込められています。空間的な奥行きを利用した構図は、手前の子どもの「若さ」、中央の妻の「成熟」、そして最も奥にいる使用人の「老い」という「人生の三段階」を示唆していると解釈されています。また、画面中央で鑑賞者を見つめる子どもの無表情な佇まいは、登場人物それぞれが自身の空間に孤立しているかのような不思議な雰囲気を醸し出しています。これにより、家族の日常風景の奥に潜む、より普遍的な人間存在のあり方や時間の流れといった寓意的な側面を提示しています。

評価と影響

「室内の子どもと女性」は、現在パリのオルセー美術館に所蔵されており、そのコレクションの一部として、時代を超えて高く評価されています。ポール・マテが活動した19世紀後半から20世紀初頭にかけて、多くの画家が近代化する都市生活や人々の日常を画題としていました。本作品は、写実主義的な描写の中に家族の私的な空間を捉えつつ、象徴的な意味を付与することで、同時代の絵画が追求した「現代性」というテーマに深く関わるものとなっています。印象派の画家たちが戸外の光の表現に挑む一方で、室内空間に独自の光を見出し、人間心理や社会の様相を描写しようとした試みを示す一例として、本作品は重要な位置を占めています。