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アパルトマンの一隅 A Corner of an Apartment

クロード・モネ Claude Monet

クロード・モネ 《アパルトマンの一隅》

本作品は、2025年10月25日より国立西洋美術館で開催される「オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語」展に出品される、クロード・モネの《アパルトマンの一隅》です。この展覧会は、印象派の画家たちが屋外の風景だけでなく、室内空間に注いだ関心と表現の多様性を探ることをテーマとしています。

制作背景と意図

《アパルトマンの一隅》は、1875年にクロード・モネによって制作された油彩画です。モネは普仏戦争を避けてイギリスに滞在した後、1871年に帰国し、パリ近郊のアルジャントゥイユに居を構えました。この作品は、アルジャントゥイユのアパルトマンの一角を描いたもので、彼の妻カミーユと長男ジャンがモデルとして登場しています。当時ジャンは7歳から8歳頃でした。

1875年は、モネにとって財政的に困難な時期であり、パリで開催された印象派の作品競売では、彼の作品の価格が低迷し、マネから経済的な援助を受けるほどでした。この作品には、華やかな外の世界とは対照的に、生活の厳しさを強いられた家族へのモネの複雑な心境が反映されているという解釈もあります。

しかし、モネの制作の主眼は、すでに光の色彩を描き出すことにありました。彼はこの作品を通じて、私的な室内という舞台における光の表現、そして現代都市生活における「親密さ」の情景を追求したと考えられます。

技法と素材

本作品は、油彩がカンヴァスに描かれています。1874年の第1回印象派展以降に制作されたこの絵画は、筆触や彩色において、写実主義的な初期の作品と比較して明確に印象派の技法が用いられています。

画面は、左右対称性を持つ奥行きのある構図が特徴です。手前には鉢植えの植物が配置され、人工灯の光によって葉が薄く浮かび上がっています。中央やや右寄りに立つ長男ジャンは、背後の窓からの逆光により影のように描かれ、画面に奥行きをもたらしています。艶のある床に映るジャンの影は、室内の静けさを表現する一助となっています。窓の脇に座るカミーユの頭部は、太い筆致で描かれています。

手前のカーテンの柄は混色で明るく描かれ、観葉植物や吊るされた照明を含めて、構成は非常に均整が取れています。画面両脇の明るい部分と、部屋の奥の暗い部分が強いコントラストをなしている点がユニークで、鑑賞者の視線は奥の子どもへと向けられます。また、作品の左右に描かれている鉢は、当時流行していた日本趣味(ジャポニスム)の影響を示唆しているという見方もあります。

意味と評価

《アパルトマンの一隅》は、単なる家族の肖像画に留まらない、モネによる室内表現の代表的な作例とされています。印象派の画家たちが現代生活の情景を画題とする中で、都市での暮らしにおいて重要性を増してきた私的室内空間を舞台とした作品であり、光と影の劇的な対比によって、特定の時間における室内空間の雰囲気や、そこで営まれる生活の一端を捉えようとしたモネの関心を示すものです。

この作品は、第3回印象派展に出品されました。 「オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語」展では、「室内の肖像」の章で展示され、印象派が戸外の光だけでなく、室内における「もうひとつの光」をいかに表現したかを示す重要な作品の一つとして位置づけられています。 現在、本作品はフランスのオルセー美術館に所蔵されています。