エドゥアール・マネ Édouard Manet
エドゥアール・マネ作「ステファヌ・マラルメ」
本作品は、1876年に制作されたエドゥアール・マネによる油彩作品「ステファヌ・マラルメ」です。オルセー美術館に所蔵されており、油彩がカンヴァスに描かれています。作品の寸法は縦27.5センチメートル、横36センチメートルです。
制作背景と経緯 画家エドゥアール・マネは、1873年頃に詩人ステファヌ・マラルメと知り合い、深い親交を築きました。 マラルメは、1874年頃にはマネの芸術を擁護する文章を発表し、両者の友情は深まっていきます。 マネはマラルメの文学作品の挿絵も手がけており、1875年にはエドガー・アラン・ポーの「大鴉」の挿絵をリトグラフで、翌1876年にはマラルメの「牧神の午後」の挿絵を木版画で制作しました。 この肖像画は、二人の友情が最も深まった1876年に描かれました。 マラルメはマネのアトリエに頻繁に通い、ポーズをとっています。 作品が制作される直前の1876年9月には、マラルメがロンドンの雑誌に「印象派の画家たちとエドゥアール・マネ」と題された論文を発表し、マネを印象派の先導者として位置づけ、「印象主義」が当時の主要な絵画運動であると明言しました。 この肖像画は、その擁護に対する返礼の意味も込められていたと推察されます。 マネは、モデルとして構える硬さを感じさせない、くつろいだ姿でマラルメを描くことを意図しました。
技法と素材 本作は油彩でカンヴァスに描かれています。詩人はソファにもたれ、葉巻をくゆらせながらくつろいだ格好で捉えられており、マネは生き生きとした筆致でその姿を描写しています。 制作当初、この絵は右側が現在の寸法より約2センチメートル短かったものの、完成直前にマネ自身がカンヴァスを継ぎ足して現在の大きさになりました。 マネの絵画技法は、伝統的な陰影による肉付けや遠近法に捉われず、平面的な色面と明確な輪郭を用いることを特徴としています。 また、筆跡を残したまま作品を仕上げることも、当時のアカデミズム絵画とは一線を画す革新的な手法でした。
作品の持つ意味 この作品は、象徴派の詩人ステファヌ・マラルメの肖像であると同時に、近代絵画の革新者であるマネと、その芸術を深く理解し擁護した文学者マラルメとの精神的な交流と深い友情を象徴しています。 マラルメはマネの絵画に見いだした「絵画の一切の伝統からの断絶」「伝統的な絵画の描き方からの断絶」「絵画というものの本質に関わる様相」「絵画の伝統的な受容からの断絶」という四つの側面を、自身の詩論と重ね合わせ、新しい美学を展開しました。 この肖像画は、そうした画期的な美学的共鳴を具現化したものとして解釈できます。
評価と影響 エドゥアール・マネは、19世紀のフランス絵画において、伝統的な絵画の約束事に囚われず、近代化するパリの情景や人物を描き出した画家です。彼は印象派の画家たちにも影響を与え、印象派の指導者または先駆者として位置づけられています。 マラルメは、マネの初期からの擁護者の一人であり、彼の美術批評は、マネと印象派の評価において重要な役割を果たしました。特に1876年の論文では、マネを印象派の先導者と明確に位置づけることで、当時の絵画における「印象主義」の重要性を広く知らしめました。 この「ステファヌ・マラルメ」の肖像画は、単なる友人の肖像画という枠を超え、近代美術の革新を共有し、互いに影響を与え合った画家と詩人の特別な関係を後世に伝える傑作として高く評価されています。現在、この作品はパリのオルセー美術館に所蔵されており、マネの他の主要作品とともに印象派のセクションで展示されています。