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ドガとエヴァリスト・ド・ヴァレルヌ Degas and Évariste de Valernes

エドガー・ドガ Edgar Degas

「オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語」展に出品されるエドガー・ドガの《ドガとエヴァリスト・ド・ヴァレルヌ》は、1865年頃に油彩でカンヴァスに描かれた作品です。

制作背景と意図 この作品は、エドガー・ドガが30代前半を迎える1865年頃に制作されました。ドガは当初、歴史画家を目指し、厳格なアカデミックな訓練と古典美術の研究を積んでいましたが、この時期から伝統的な歴史画の技法を現代の主題に応用し、現代生活を描く古典画家へと転換を図っていきました。 本作は、ドガ自身と、彼が尊敬する画家仲間であるエヴァリスト・ド・ヴァレルヌを描いた二重肖像画です。 ドガは生涯を通じて肖像画に深い関心を持ち、特に初期には親しい家族や友人をモデルとして多数の肖像画を制作しました。 この作品の意図は、二人の男性間の率直な会話や、スタジオという空間における静けさと知的な交流の瞬間を捉えることにあったとされています。 ドガの肖像画は、しばしば人物の心理的な複雑さや内面の孤独を描写することで知られています。

技法と素材 本作は油彩でカンヴァスに描かれています。ドガはこの作品において、主に抑制された色彩、特にミュートされたブラウンやグリーンを用いて、スタジオの落ち着いた雰囲気を表現しています。 筆触は巧みに分割され、人物の姿勢や表情の微妙な変化を捉え、質感と動きを伝えています。 ドガは印象派の画家たちと交流がありましたが、彼自身は「印象派」という呼称をあまり好みませんでした。彼の作品は、光と色彩の表現よりも構図と線の美しさに重きを置いており、屋外での写生を軽視し、アトリエでの綿密なデッサンに基づいた制作を重んじました。 新古典主義の巨匠アングルの弟子であるルイ・ラモットからの「線を引きなさい、たくさんの線を」という助言を終生守り、線描を重視したスタイルを貫きました。 また、写真や日本の浮世絵から着想を得た斬新な構図も、ドガの作品の独自性を形成しています。

作品の意味 《ドガとエヴァリスト・ド・ヴァレルヌ》は、二人の芸術家が交わす親密な対話、そして彼らの間の知的な絆を暗示する作品です。ドガは、モデルの本質を捉える卓越した能力を発揮し、この作品を通じて、ヴァレルヌという人物、そして彼自身の存在感を深く表現しています。 落ち着いた室内空間の中で、画家の鋭い観察眼によって捉えられた一瞬が、鑑賞者に深い思索を促します。

評価と影響 本作は、ドガの細部へのこだわりと技法の熟達を示す、印象派美術の優れた一例とされています。 ドガの革新的な構図、卓越したデッサン力、そして現代生活のありのままの姿を描く姿勢は、その後の美術史に多大な影響を与え、パブロ・ピカソやアンリ・マティスといった後世の芸術家にも影響を与えました。 ドガは、バレリーナや競馬、入浴する女性など、現代都市の多様な側面を描き出し、その独自の視点と表現方法で、19世紀後半のフランス絵画において重要な位置を占める巨匠の一人として高く評価されています。