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ピエール=オーギュスト・ルノワール Pierre-Auguste Renoir

フレデリック・バジール Frédéric Bazille

オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語

フレデリック・バジール作 《ピエール=オーギュスト・ルノワール》

この度ご紹介するのは、オルセー美術館所蔵の展覧会「印象派―室内をめぐる物語」にて展示される、フランスの画家フレデリック・バジールが1867年に制作した油彩画《ピエール=オーギュスト・ルノワール》です。本作品は、後に印象派の中心人物となる画家、ピエール=オーギュスト・ルノワールを描いた肖像画であり、印象派の黎明期における画家たちの親密な交流を示す貴重な一枚です。

制作の背景と経緯、作者の意図

フレデリック・バジールとピエール=オーギュスト・ルノワールは、シャルル・グレールのアトリエで出会い、クロード・モネやアルフレッド・シスレーらと共に後に「バティニョール派」と呼ばれる若き画家グループの主要メンバーとなりました。彼らは当時の保守的なアカデミズム絵画に飽き足らず、戸外制作などを通じて新しい絵画表現を模索していました。

裕福な家庭に生まれたバジールは、経済的な余裕がないルノワールやモネといった友人たちを物心両面で支え、自身のアトリエを彼らに提供することも度々ありました。本作が描かれた1867年頃、バジールとルノワールはパリのヴィスコンティ通りでアトリエを共有していました。この肖像画は、こうした緊密な共同生活と芸術への情熱を共有する中で生まれました。バジールは親しい友人の日常的な姿を捉えることで、彼らの友情と、新しい芸術の創造に向けた共通の志を表現しようとしたと考えられます。

技法と素材

本作品は1867年に油彩/カンヴァスで制作されました。バジールの画風は、アカデミズムで培った堅実な構成力と、印象派的な光と色彩への関心を融合させたものでした。初期の作品では特に外光表現を意識していましたが、晩年に近づくにつれてアカデミックな描写へと移行する傾向も見られます。

《ピエール=オーギュスト・ルノワール》では、ルノワールの顔立ちや特徴が生き生きと捉えられています。人物の描写には筆致が見て取れる一方で、背景の処理は簡潔であり、影の表現や空間の雰囲気に重点が置かれている可能性があります。バジールは、夏の情景を描いた他の作品において、柔らかい筆致と軽やかな色彩の重ね塗りで光の反射や影の微妙な色調変化を巧みに表現し、印象派的な光と色の探求と古典的な描写を融合させています。本作にも、彼の繊細な観察眼と表現技法が反映されていると言えるでしょう。

作品の持つ意味

この肖像画は、単に一人の画家の顔を描いたもの以上の意味を持っています。それは、まだ「印象派」という呼称が定着する以前、若き画家たちが互いに刺激し合い、支え合いながら新たな芸術の道を模索していた時代の証です。本作は、バジールがルノワールを間近で観察し、その個性や存在感を親密な視線で捉えたものであり、彼らの個人的な友情と同時に、初期印象派グループの連帯を象徴する作品として重要視されています。ルノワールのくつろいだ姿勢は、バジールの前で素顔を見せる友の姿を写し取ったものと解釈できます。

評価と影響

フレデリック・バジールは、1870年の普仏戦争で28歳という若さで戦死したため、残された油彩画はわずか70点ほどとされています。しかし、彼の作品群は、印象派誕生の貴重な記録として高く評価されています。バジールの死は他の印象派の画家たちに大きな衝撃を与えましたが、彼が抱いていた「サロンから独立したグループ展」の構想は、彼の死後、1874年にモネやルノワールらによって「印象派展」として実現されることになります。

《ピエール=オーギュスト・ルノワール》は、ルノワールが描いた《フレデリック・バジールの肖像》と共に、当時の画家たちの相互的な交流と深い絆を示す作品として、今日でも美術史において重要な位置を占めています。バジールの早逝により、彼自身の活躍は短命に終わりましたが、その才能と仲間への支援は、印象派の形成と発展に不可欠な要素であったと言えるでしょう。