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開館50周年記念 モダンアートの街・新宿

SOMPO美術館 開館50周年記念 モダンアートの街・新宿

SOMPO美術館は、開館50周年を記念し、「モダンアートの街・新宿」展を開催しています。本展は、日本の近代美術、すなわちモダンアートの歴史が、新宿という地域の存在なくしては語りえないという考えのもとに企画されました。明治時代末期から戦後初期にかけて、新宿は新進的な芸術家たちが集い、交流し、新たな表現を生み出す、近代美術の一大拠点となりました。この展覧会では、中村彝や佐伯祐三から、松本竣介、宮脇愛子に至るまで、新宿ゆかりの約40名の芸術家たちの約半世紀にわたる創作の軌跡をたどる、新宿の美術館として初の試みとなります。本展は2026年1月10日(土)から2月15日(日)まで開催されます。

1:展覧会の見どころ

本展には、日本の近代美術における新宿の役割と魅力を深く掘り下げる三つの主要な見どころがあります。

まず第一に、「アートで知る、新宿の文化史」という視点です。 展覧会は、明治時代末期から戦後初期にかけての約半世紀を四つの区分に設定し、時系列に沿って新宿の文化史を紐解きます。それぞれの時代区分における芸術運動や表現が、新宿という街の多様な文化をどのように形成し、持続させてきたかを理解することができます。単なる美術作品の羅列ではなく、新宿という舞台装置を通じて、日本の近代が育んだ芸術の変遷とその背景にある社会や文化の変化を追体験できる構成となっています。

第二に、「見て、歩いて、味わう新宿」という、来場者の体験を拡張する提案です。 SOMPO美術館が位置する新宿には、展覧会で紹介される芸術家たちゆかりの場所が今もなお数多く点在しています。美術館で新宿の豊かな芸術文化に触れた後、実際に街に出て、ゆかりの地を巡ることで、作品が生まれた時代の息吹や、芸術家たちが感じたであろう新宿の空気感を肌で感じることができます。これは、美術館内での鑑賞に留まらず、街全体を「生きた展示空間」として捉える、いわば“逆”没入型のユニークな体験を可能にします。

そして第三の見どころは、「あのアーティストも『新宿』?」という発見の喜びです。 「新宿」という地域性に注目することで、これまで知られていた著名なアーティストたちの間に、意外な関係性や知られざる交流があったことが見えてきます。本展では、新宿に生きて創作活動を行った約40名の多岐にわたるジャンルの芸術家たちの作品が一堂に会し、彼らがどのように新宿という街に引き寄せられ、互いに影響し合い、それぞれの芸術を深化させていったのかを明らかにします。これは、個々の作品や芸術家だけでなく、彼らを取り巻く「新宿」という環境が、いかに創造の源泉であったかを再認識する貴重な機会となるでしょう。

2:展覧会の流れ

本展は、新宿が日本の近代美術において果たした役割を、時系列とテーマごとに四つの章で構成し、来場者が実際に新宿のモダンアートの歴史を歩むように鑑賞できるよう工夫されています。各章は独立したテーマを持ちつつも、新宿という共通の舞台を通じて密接に繋がり、時代の変遷とともに芸術がどのように展開していったかを示しています。

第1章:中村彝と中村屋 ルーツとしての新宿

展覧会の幕開けとなる第1章では、明治時代末期から大正時代にかけての新宿が、いかにして芸術家の集積地となったか、そのルーツに迫ります。この時代の新宿の中心には、相馬愛蔵・黒光夫妻が経営するパン屋「中村屋」がありました。1909年(明治42年)に新宿に移転した中村屋は、単なる店舗に留まらず、荻原守衛(碌山)や戸張孤雁、高村光太郎といった新進の芸術家たちが集い、熱心な芸術談義を交わす「中村屋サロン」と呼ばれる交流の場を形成しました。

この章の主要な人物の一人が、近代日本を代表する洋画家、中村彝です。 彼は1911年(明治44年)に中村屋の裏手にあるアトリエに住み始め、相馬家と家族ぐるみで深い関係を築きました。中村彝は、相馬家の子供たちをモデルにした肖像画を数多く制作し、特に長女の俊子を描いた作品は有名です。後に病を患い下落合に転居した後も、そのアトリエで静物画の探求を深化させました。

本章では、中村彝の代表作である1923年の《頭蓋骨を持てる自画像》や、《カルピスの包み紙のある静物》などが展示され、画家の内面世界と新宿での生活の一端を垣間見ることができます。 また、白樺派の活動との関連も示唆されており、1909年(明治42年)の有島生馬による《黒衣の女》など、文学と美術が密接に結びついた新宿周辺の芸術環境が紹介されます。 この章は、新宿が単に芸術家が住まう場所ではなく、芸術が育まれ、発展するための土壌そのものであったことを象徴しています。

第2章:佐伯祐三とパリ/新宿 往還する芸術家

第1章で形成された新宿の芸術的土壌は、やがて国内外へと視野を広げる芸術家たちを輩出していきます。第2章では、佐伯祐三を中心に、パリと新宿を行き来しながら新たな表現を追求した芸術家たちの活動に焦点を当てます。この時代、新宿は、日本における西洋美術受容の最前線の一つでもありました。

佐伯祐三は、1921年(大正10年)に白樺美術館第1回展で展示されたフィンセント・ファン・ゴッホの《ひまわり》に強い影響を受け、彼の芸術形成に不可欠な出会いとなりました。 彼はパリに渡り、異国情緒あふれる街の風景や人物を描き、独自の画風を確立していきます。大阪中之島美術館所蔵の《立てる自画像》に見られるように、佐伯の作品は画家としての自負と不安が交錯する、力強い表現が特徴です。

この章では、佐伯祐三がパリで得た経験を新宿に持ち帰り、また新宿で培った感性をパリで開花させた、往還する芸術家の姿が描かれます。海外の動向に敏感に反応し、それを自身の表現に昇華させた芸術家たちが、新宿という場所を精神的な拠点としつつ、グローバルな視点で創作活動を行った様子が紹介され、新宿が単なる国内の拠点に留まらない、国際的な芸術交流の窓口であったことが示唆されます。

第3章:松本竣介と綜合工房 手作りのネットワーク

大正から昭和初期、特に震災後の時代に入ると、新宿の芸術シーンは新たな展開を見せます。第3章では、松本竣介とその周辺の芸術家たちによる「綜合工房」といった自主的な芸術運動に焦点を当て、手作りのネットワークによって築かれた創造的なコミュニティを紹介します。

この時期の新宿は、既存の画壇や権威とは異なる、より自由で実験的な表現を求める芸術家たちの活動の場となりました。彼らは時に共同でアトリエを構えたり、機関誌を発行したりするなど、自らの手で芸術の場を創造しようと試みました。松本竣介は、都会の風景や人物を、叙情的かつ現代的な感覚で描き出した画家として知られています。彼の作品は、当時の社会情勢や人々の内面を映し出す鏡のような役割を果たしました。

この章では、芸術家たちが互いに支え合い、影響し合いながら、特定の様式や主義に囚われずに独自の表現を追求していった様子が展示されます。新宿の多様な文化が、こうした手作りのネットワークを育む土壌となり、既成概念にとらわれない新しいアートの潮流を生み出したことが、作品群を通じて示されます。また、この章は、芸術が個人の内面から生まれるだけでなく、人々のつながりや共鳴の中から生まれるものであるという視点も提供します。

第4章:阿部展也と瀧口修造 美術のジャンルを越えて

展覧会の最終章となる第4章では、戦前から戦後にかけての、美術のジャンルを越えた多様な表現を追求した芸術家たちの活動にスポットを当てます。ここでは、画家・阿部展也と美術評論家・詩人の瀧口修造を中心に、シュルレアリスムの受容や、絵画、写真、文学といった領域を横断する実験的な試みが新宿で展開された様子が紹介されます。

阿部展也は、シュルレアリスムを日本に紹介し、その表現を自らの作品に取り入れた先駆者の一人です。彼の作品は、夢や無意識の世界、非現実的なイメージを探求し、当時の日本の画壇に新たな風を吹き込みました。また、瀧口修造は、芸術家たちを精神的に支援し、彼らの活動を理論的に位置づける役割を果たすことで、日本の前衛芸術の発展に大きく貢献しました。彼は詩人としても活動し、芸術作品と言葉との関係性を深く探求しました。

この章では、既成の美術概念にとらわれず、自由な発想で表現の可能性を広げようとした芸術家たちの姿が描かれます。具体的な作品を通じて、彼らがどのように伝統的な芸術の枠組みを乗り越え、新しい時代の芸術を切り開いていったかを見ることができます。また、展覧会概要で言及されている宮脇愛子のような、戦後の抽象彫刻や環境芸術へと繋がる、ジャンルを横断する動きの萌芽もこの章で見出せる可能性があります。この章は、新宿が常に新しい芸術の動きを受け入れ、育む、開かれた街であったことを強く印象づけます。

3:全体のまとめと結びの文章

「開館50周年記念 モダンアートの街・新宿」展は、SOMPO美術館の50周年という節目にふさわしく、新宿という特定の地域が日本の近代美術史において果たした、計り知れない重要性を浮き彫りにする画期的な展覧会です。中村屋サロンに集った初期の芸術家たちから、国際的な視点を持った佐伯祐三、自主的なネットワークを築いた松本竣介、そしてジャンルを超えた表現を追求した阿部展也や瀧口修造まで、新宿は常に変化と創造のエネルギーに満ちた場所でした。

本展を通じて、来場者は単に個々の優れた作品を鑑賞するだけでなく、作品が生まれた背景にある新宿という街の息遣いや、そこで生きた芸術家たちの情熱と交流の歴史を深く理解することができます。それぞれの章は、時代の流れとともに新宿の芸術シーンがどのように変容し、発展していったかを明確に示しており、各章が密接に連携しながら、約半世紀にわたる日本のモダンアートの豊かな物語を紡ぎ出しています。

「モダンアートの街・新宿」展は、新宿が日本の近代美術の発展に不可欠な存在であったことを再認識させるとともに、芸術と都市が織りなす奥深い関係性を問いかけます。この機会にSOMPO美術館を訪れ、新宿が育んだ多様な芸術表現と、その歴史の奥行きを体験されてはいかがでしょうか。この展覧会は、新宿という街の新たな魅力を発見し、日本のモダンアートへの理解を一層深める貴重な機会となることでしょう。

展示会情報

会場
SOMPO美術館
開催期間
2026.01.10 — 2026.02.15