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われむかしの日 いにしえの年をおもえり / I Have Considered the Days of Old, the Years of Ancient Times

清宮質文 / Seimiya Naobumi

このたびご紹介するのは、清宮質文(せいみや なおぶみ)の木版画作品、「われむかしの日 いにしえの年をおもえり」です。本作品は1982年に制作され、茨城県近代美術館の照沼コレクションに収蔵されています。

制作背景と意図

清宮質文は1917年に東京で生まれ、戦後の日本木版画界を代表する作家の一人です。東京美術学校で油彩画を学んだ後、1953年頃から版画制作に本格的に取り組み始めました。彼は、外的な限界はあっても内面の世界は無限に広がるという思想を持ち、静謐で夢幻的、そして詩的な心象世界を作品に表現し続けました。戦中体験や戦後の荒廃した社会を背景に、「静けさ」や「孤独」をテーマとした独自の詩的な世界観を確立しています。

本作品のタイトル「われむかしの日 いにしえの年をおもえり」は、過去を深く顧みるという行為を示唆しており、彼の内面探求の姿勢と合致します。1982年の制作当時、清宮は春陽会を退会し、個展を中心に無所属で活動していました。この時期の作品には西洋絵画や思想からの影響が見られるものも多く、本作における壮大な歴史観の表現には、ゴーギャンの作品からの影響も指摘されています。作品は85部制作されたエディション作品の一つです。

技法と素材

「われむかしの日 いにしえの年をおもえり」は、木版画の技法を用いて紙に摺られた作品です。清宮質文の木版画は、複雑な色調の摺りによって特徴づけられます。浮世絵の伝統木版画にも通じる高度な技術を持っており、繊細で透明感のある、水彩画やパステル画のようなグラデーションを木版画で表現しました。彼は版画の可能性を複製性よりも造形的な特色に認め、モノタイプを中心に制作しました。

彼の作品は、単純化された対象と、抽象と具象の中間のような構図が特徴です。色彩は控えめな色調で表現されており、初期の作品には黒と灰色を基調とした静謐な色調が多く見られますが、晩年にはわずかに色彩を導入し、モノトーンの世界に温かみを加えることで深い余韻を生み出しています。木目の視認性は低いのが特徴です。

作品の意味

本作品は、遠い昔に思いを馳せ、その場に浮遊するような魂の不変の思いを表現していると解釈されます。人間の魂を「オバケ」と呼び、それを最小限の具象表現で版の上に呼び出し続けた清宮は、孤独な魂の救済を歌い上げた抒情詩人であると言えるでしょう。作品全体から感じられる静けさや孤独感は、観る者に「静けさの中にある強さ」を感じさせ、時代を超えて多くの人々を魅了し続けています。

評価と影響

清宮質文は「木版の詩人」と称され、その詩的で静謐な作風は高く評価されています。彼の技術の高さは、職人技を思わせる精緻なものとして評価され、寡作でありながらもストイックな制作姿勢が知られています。近年では教科書にも掲載されるなど、その芸術的価値はさらに高まり、国内外で評価されています。