芥川(間所)紗織 / Akutagawa (Madokoro) Saori
開館50周年記念「モダンアートの街・新宿」展で紹介されている芥川(間所)紗織の作品「女」(1954年、染色・綿布、板橋区立美術館蔵)について解説します。
作品の背景と意図 芥川(間所)紗織(1924-1966年)は、1950年代を中心に活躍した日本の前衛画家です。東京音楽学校で声楽を学びましたが、結婚を機に絵画の道へ進み、猪熊弦一郎のもとで油絵を、野口道方からろうけつ染めを習得しました。当時、女性画家が少なかった時代において、「染色」という独自の技法で美術界に新境地を切り開いた作家として知られています。
作品「女」は、芥川が1954年から1955年頃に集中的に制作した「女」シリーズの一つです。このシリーズは、画面の中心に一人の女性が立ち、時に叫び、髪を逆立てる姿が繰り返し描かれているのが特徴です。 芥川は「女」というタイトルで多数の作品を手がけ、それらは彼女自身の内なる声、あるいは自画像であるとも言われています。 これらの作品は、当時の美術界において、熱い怒りを強く主張する異質な作品として注目されました。
技法と素材 本作は「染色・綿布」という技法と素材が用いられています。芥川が習得したろうけつ染めは、溶かした蝋を筆などで布に塗り模様を描き、染料で布を染色し、蝋を落として水洗いする工程を繰り返す、非常に手間のかかる技法です。 芥川は、油彩画と並行して染色作品を制作し、この独自の技法を駆使して彼女ならではの世界観を表現しました。 1950年代の美術界では、染色が「女性的」「工芸的」な手法として油彩画より一段低く見なされる傾向がありましたが、芥川はその中で独自の表現を追求しました。
作品の意味 「女」シリーズは、一度見たら忘れられないような、エネルギッシュでありながらユーモラスさや、時には畏怖を感じさせる女性像を描いています。 これらの作品は、当時の作家としては全く異質な、激しい感情と強い主張を表現しており、現代社会における女性の存在や内面の葛藤を象徴しているとも解釈できます。 彼女の作品に一貫して見られる明るく鮮やかな色彩は、この頃の作品にもすでに用いられており、人物を植物的な形や線でユーモラスに表現する特徴が見られます。
評価と影響 1954年、芥川は第4回モダンアート協会展に「女」などを出品し、新人賞を受賞しました。 翌1955年には、岡本太郎の勧めにより二科会に移り、第40回二科展の岡本太郎室に「女B」や「女XI」などの染色作品を出品し、特待賞を受賞。これにより、前衛作品を描く新進画家として脚光を浴びることとなりました。 芥川(間所)紗織は、41歳で早逝するまでの約15年間の画業において、常に新しいテーマや手法を模索し、独自の表現を追い求め続けました。 その烈しいエネルギーは、技法を超えた作風の変遷となって表れており、現在も国内外で再評価が進んでいます。