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トロウッド (原作:作品) / Toro-wood (original: Work)

斎藤義重 / Saito Yoshishige

「開館50周年記念 モダンアートの街・新宿」展にて紹介される斎藤義重の作品《トロウッド(原作:作品)》は、日本の現代美術史において重要な位置を占める作品です。本作品は、1938年に制作された「作品」を斎藤自身が1973年に再制作したもので、ラッカーと木という素材が用いられ、横浜美術館に収蔵されています。

制作背景・経緯・意図 斎藤義重(1904-2001)は、昭和の戦前・戦後を通じて日本の前衛芸術を牽引した美術家です。学生時代に構成主義やダダイスム、ロシア未来派などのヨーロッパの前衛芸術運動に強い影響を受け、既存の絵画が持つイリュージョン性や平面性を否定し、「反絵画的」な表現を追求するようになりました。 1930年代初頭から立体的な作品制作を志向していた斎藤は、1931年には既にレリーフ状の作品を二科展に出品しようとしましたが、絵画部門・彫刻部門のいずれにも分類されず、受け入れられなかったという逸話が残されています。これは、斎藤が既存のジャンルに収まらない独自のアートと向き合っていたことを示しています。 1938年頃には、白い合板を地とし、その上に赤や黒などに彩色された楕円状や帯状の板を重ねたレリーフ状の作品「作品」を発表しました。しかし、これらの戦前の作品の多くは、1945年の空襲により焼失してしまいます。 その後、1973年の連続回顧展を機に、斎藤は空襲で失われた戦前の作品群を、残された写真と自身の記憶をもとに再制作する活動を開始しました。この再制作は単なる復元ではなく、当時の素材や技法を再検討し、現代の視点から作品を再構築する試みでした。この時、発表当初「作品」とされていた合板によるレリーフ状の作品が、再制作を機に《トロウッド》と名付けられました。この名称は、作品がマグロの「トロ」が木板(ウッド)の上に並んでいるように見えることから、斎藤自身が茶化して名付けたことに由来すると言われています。

技法や素材 《トロウッド(原作:作品)》は、ラッカーと木(合板)を素材として用い、その上に彩色が施されています。本作は、従来の絵画におけるキャンバスの平面性から脱却し、合板を重ね合わせることで「レリーフ状」の形態を作り出しています。この技法は、絵画のイリュージョンを否定し、作品が持つ物質としての存在感を強調するための斎藤の重要なアプローチでした。彼は絵画のイリュージョニズムではなく、現実の厚みや奥行きを作品の中に創出しようと試みました。

意味 本作品は、絵画と彫刻の境界を超えた「レリーフ」というカテゴリーに位置づけられ、平面の多層性によって生み出される「絵画ではない絵画」を提示しています。斎藤義重は、作品を「純粋なるもの」として存在させ、見る者に抽象的な思考や解釈を促すことを意図していました。そこには唯一の「正解」はなく、鑑賞者それぞれが作品をきっかけに思索や感性を深めることが求められます。絵画のイリュージョンを否定し、物質そのものが持つ存在感を追求する斎藤の根底にある思想が、この作品に込められています。

評価や影響 斎藤義重は、戦後の日本の現代美術におけるパイオニアとして、国際的にも高く評価されています。特に、1964年に多摩美術大学の教授に就任してからは、後に「もの派」を代表する芸術家となる関根伸夫や菅木志雄らを育成し、後世の芸術家に多大な影響を与えました。彼の作品は、従来の油絵などの制作手法にとらわれず、ドリルや合板などを用いた平面と立体を融合させた独自のものであり、自由な発想による創作活動は、現代美術の展開に大きく貢献しました。《トロウッド》は、こうした斎藤義重の芸術観と革新的な表現を象徴する代表作の一つとして、今もなお多くの人々に深い思索を促し続けています.