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夜曲 / Serenade

阿部展也(芳文) / Abe Nobuya (Yoshibumi), 瀧口修造 / Takiguchi Shuzo

開館50周年記念 モダンアートの街・新宿 ─ 阿部展也と瀧口修造による共作「夜曲」

SOMPO美術館で開催される開館50周年記念展「モダンアートの街・新宿」において、画家・阿部展也(芳文)と評論家・美術家の瀧口修造による共作「夜曲」が紹介されています。この作品は、両者の多岐にわたる芸術活動と、日本におけるシュルレアリスムの展開を象徴する重要な存在です。

制作背景・経緯・意図

阿部展也と瀧口修造の関係は、1930年代の日本における前衛芸術運動において極めて重要なものでした。彼らは、1937年に詩画集『妖精の距離』を共作しました。この詩画集は、当時の美術界における先端的なムーブメントであったシュルレアリスムに則った傑作として評価されています。瀧口は20代前半の阿部の才能にいち早く気づき、その名前を広める役割を担いました。両者のコラボレーションは、美術のジャンルを越えた新しい表現の探求という明確な意図のもとに行われました。特に、瀧口が阿部の鉛筆素描に触発されて詩作を行うなど、相互に影響し合う形で制作が進められました。彼らの活動は、絵画、写真、彫刻、音楽、映像、舞台、詩といった多様なジャンルを横断する「実験工房」の結成へと繋がる、先駆的なものでした。

「夜曲」という作品もまた、このような両者の緊密な協働関係の中で生み出されたものと考えられます。具体的な「夜曲」の制作背景は詳細に明示されていませんが、彼らの代表的な共作である『妖精の距離』がシュルレアリスムの精神を色濃く反映していることから、「夜曲」もまた、夢や無意識の世界、現実と非現実の融合といったシュルレアリスム的探求を主題としていたと推測されます。

技法や素材

「夜曲」の具体的な技法や素材に関する詳細な情報は見当たりませんが、阿部展也と瀧口修造の共作として最も知られる詩画集『妖精の距離』においては、阿部が絵を、瀧口が詩を手がけました。阿部の絵は鉛筆素描が用いられており、繊細かつ幻想的な表現が特徴です。阿部はその後、蜜蝋と絵の具を調合し加熱してキャンバスに定着させるエンコースティックという古典的な技法も多用しましたが、初期の詩画集では鉛筆素描が中心でした。したがって、「夜曲」もこの時期の阿部のドローイングと瀧口の詩が結びついた形式であった可能性が高いです。

意味

「夜曲」というタイトル自体が、夜の静寂や夢幻的な世界を想起させます。シュルレアリスムが人間の無意識や夢の世界を重視したことを考えると、「夜曲」は、日常の表層の下に潜む深層心理や、理性では捉えきれない神秘的な領域への問いかけを意味していたと考えられます。それは、詩と絵画という異なる表現形式を融合させることで、より多角的で奥行きのあるイメージ世界を創出しようとする試みでもありました。この作品は、シュルレアリスムが探求した「客観的偶然」や「驚異」といった概念を視覚と言葉で表現しようとしたものと解釈できます。

評価や影響

阿部展也と瀧口修造の共同制作は、発表当時から高い評価を受けました。詩画集『妖精の距離』は、詩人の西脇順三郎からシュルレアリスムの傑作として絶賛されています。この共作は、当時の日本の前衛芸術界に大きな影響を与え、音楽家の武満徹や彫刻家の宮脇愛子といった後進の芸術家たちにも影響を与えました。

彼らの活動は、絵画と詩という異なるジャンルを横断するものであり、その先駆性は、後の「実験工房」など、多様なメディアを融合させた芸術活動の萌芽となりました。この共作を通じて示された、ジャンルを超えた芸術表現への志向は、日本のモダンアートの発展に重要な足跡を残しました。 「夜曲」もまた、この一連の評価と影響の中に位置づけられる作品であり、日本のシュルレアリスム運動、そして芸術家間のコラボレーションの可能性を示す貴重な資料として、現代に伝えられています。