阿部展也(芳文) / Abe Nobuya (Yoshibumi), 瀧口修造 / Takiguchi Shuzo
「開館50周年記念 モダンアートの街・新宿」展で紹介される、阿部展也(芳文)と瀧口修造による作品「風の受胎 / Impregnation of Wind」は、日本のモダニズム美術史における重要な二人の人物の協働を示すものとして注目されます。しかしながら、この特定の作品「風の受胎」に関する詳細な背景、経緯、技法、素材、意味、評価、影響についての具体的な情報は、現在の公開情報からは見出すことができませんでした。
以下に、作品が展示される展覧会の背景と、阿部展也および瀧口修造の活動から推察される作品の可能性について説明します。
SOMPO美術館の開館50周年を記念する展覧会「モダンアートの街・新宿」は、新宿という地域が明治時代末期から戦後初期にかけて日本の近代美術の一大拠点として機能した歴史を紐解くものです。本展では、新宿にゆかりのある約40名の芸術家の作品が一堂に会し、50年という時間軸でその文化史をたどります。
「阿部展也と瀧口修造 美術のジャンルを越えて」と題された第4章では、画家である阿部展也(芳文)と美術評論家・詩人である瀧口修造の共作である詩画集『妖精の距離』(1937年)を起点に、新しい手法を絵画に取り入れた作家たちが紹介されます。 瀧口は、福島秀子や写真家の大辻清司らが「実験工房」を結成する際にもその名を授け、絵画、写真、彫刻、音楽、映像、舞台、詩など、ジャンルを横断する活動を支援しました。
阿部展也と瀧口修造は、日本の前衛美術、特にシュルレアリスムと前衛写真の領域において密接な関係にありました。瀧口は早くから阿部の才能を評価し、二人の関係は阿部のキャリアを通じて続きました。 1937年には、阿部の鉛筆デッサンに瀧口が詩を寄せる形で詩画集『妖精の距離』を共同制作・刊行し、これにより阿部の評価と知名度は大きく高まりました。
1938年には、瀧口を中心として「前衛写真協会」が発足し、シュルレアリスム写真の可能性を追求しました。 瀧口は、写真の本質を記録性に見出し、日常の中に潜む美を発見することこそがシュルレアリスム写真であると提唱しました。 阿部もこの思想に共鳴し、オブジェや風景の写真を発表しています。 阿部が撮影したとされる写真作品《夜の目》(1939年)は、日常の景色の中に価値を見出すという彼の意識を示しています。
この二人の共通の関心は、単なる絵画や写真といった特定のジャンルに留まらず、芸術表現の境界を横断し、日常生活の「なんでもないもの」の中に隠された「前衛」の精神を見出すことにありました。
「風の受胎」という作品名が示唆するように、この作品は、風という捉えどころのない自然現象と、「受胎」という生命の始まり、あるいはある概念や思想が形を得る瞬間という、神秘的かつ生成的なテーマを扱っている可能性があります。阿部と瀧口のこれまでの協働や、シュルレアリスムにおける無意識や夢、偶然性の重視、そして日常の事物を詩的に再構築する姿勢を鑑みるに、「風の受胎」は、具象と抽象、可視と不可視の境界を探求した作品であったと推測されます。
彼らの活動が絵画と写真の両方に及んでいることから、「風の受胎」は絵画作品である可能性も、あるいは写真あるいは写真的な手法を用いたミクストメディア作品である可能性も考えられます。特に、瀧口が提唱した「なんでもないものの変容」という概念や、阿部がオブジェや風景を扱った写真制作に取り組んだことを踏まえると、日常的な要素を非日常的な視点で捉え直し、詩的な意味を付与しようとした作品であったかもしれません。
「風の受胎」に関する詳細情報は、今後の展覧会関連資料や研究の進展によって、より明確になることが期待されます。