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影の通路 / Path of Shadow

阿部展也(芳文) / Abe Nobuya (Yoshibumi), 瀧口修造 / Takiguchi Shuzo

阿部展也と瀧口修造による共同作品「影の通路」:前衛芸術における詩とイメージの交錯

SOMPO美術館にて開催される「開館50周年記念 モダンアートの街・新宿」展において、阿部展也(芳文)と瀧口修造による共同作品「影の通路」が紹介されます。この作品は、1937年に刊行された詩画集『妖精の距離』の一部として制作された版画であり、日本の前衛芸術史において重要な位置を占める作品です。

制作背景、経緯、意図

「影の通路」は、画家であり後に写真家としても活躍した阿部展也(1913-1971)と、詩人・美術評論家として日本のシュルレアリスムを牽引した瀧口修造(1903-1979)の緊密な共同作業から生まれました。両者は日本の前衛芸術運動において重要な役割を担い、特に写真表現におけるシュルレアリスムの可能性を追求しました。

詩画集『妖精の距離』は、阿部が描いた12点の鉛筆デッサンに、瀧口が詩を寄せるという形で制作されました。瀧口は、詩と絵画が有機的に結びついた「詩画集」という形式の中に、理想的な表現を見出していました。一方、阿部自身もこの詩画集の発表を、画家としての自身の評価と知名度を一気に高め、大きな一歩を踏み出す契機であったと回想しています。彼らの制作意図は、単に奇妙な幻想やグロテスクなイメージを追求するだけでなく、日常の中に潜むシュルレアリスム的な要素や、見過ごされがちな風景の中に「新しく素直な調和」を見出し、それを記録することにありました。

技法や素材

「影の通路」は、詩画集『妖精の距離』を構成する作品の一つとして「版画」として制作されました。この詩画集は、大判のケント紙に阿部のデッサンと瀧口の詩が配置されており、阿部の描いたドローイングはコロタイプなどの印刷技術によって再現されたと考えられます。この制作方法は、当時の限られた条件下で、詩と視覚イメージを融合させるための革新的な試みでした。

作品が持つ意味

「影の通路」というタイトルは、文字通り、視覚的なイメージと詩的な言葉が織りなす「影」のような曖昧で深遠な空間、あるいは隠された意味への「通路」を示唆しています。瀧口修造は、写真におけるシュルレアリスムを「日常現実の深い襞のかげに潜んでいる美を見出すこと」と定義しており、この思想は「影の通路」を含む『妖精の距離』全体に通底しています。作品は、目に見える現実の奥に広がる無意識の世界や、日常の中に埋もれた非日常的な美を感受することを鑑賞者に促します。阿部展也もまた、オブジェや風景を通して、日常的なものの中にシュルレアリスム的な発見を見出すことを追求しました。

評価や影響

詩画集『妖精の距離』の刊行は、阿部展也の芸術家としての地位を確立する上で決定的な役割を果たしました。この共同作業を通じて、瀧口修造の阿部に対する評価は揺るぎないものとなり、その関係性は戦前から戦後にかけて長く続きました。

両者の協働と前衛芸術への貢献は、後の日本の芸術運動にも多大な影響を与えました。特に、彼らの活動は、戦後に結成された「実験工房」など、絵画、写真、彫刻、音楽、映像、舞台、詩といった多様なジャンルを横断する総合的な芸術活動の源流の一つとなりました。

「開館50周年記念 モダンアートの街・新宿」展で「影の通路」が展示されることは、新宿という地が日本の近代美術の重要な拠点であり、阿部展也と瀧口修造の先駆的な試みが、美術のジャンルを超えた新しい表現の探求の出発点として現代においても高く評価されていることを示しています。彼らの作品は、日本の写真史、特にシュルレアリスム写真の展開を語る上で不可欠なものとして、現在も国内外で注目を集めています。