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遮られない休息 / Undisturbed Rest

阿部展也(芳文) / Abe Nobuya (Yoshibumi), 瀧口修造 / Takiguchi Shuzo

詩画集『妖精の距離』より「遮られない休息」:前衛芸術が交錯する一点

SOMPO美術館の開館50周年を記念する展覧会「モダンアートの街・新宿」において、日本の前衛芸術を牽引した阿部展也と瀧口修造による作品「遮られない休息」が紹介されています。この作品は、1937年に発表された詩画集『妖精の距離』に収録された一編であり、詩と絵画が一体となったシュルレアリスムの傑作として位置づけられています。

制作背景と意図

「遮られない休息」は、詩人・美術評論家である瀧口修造が手掛けた同名の詩と、画家・写真家として活動した阿部展也の絵(鉛筆素描が原画とされる)によって構成される詩画集『妖精の距離』の一部です。瀧口修造は早くから阿部展也の才能を認め、阿部の鉛筆素描に触発されて詩作を行いました。この詩画集は、当時の美術界の最先端であったシュルレアリスムの潮流を汲み、日本の前衛芸術の初期における重要な試みとして制作されました。彼らの協働は、絵画、写真、詩といったジャンルを横断する活動の起点となり、日本のモダンアートの形成において大きな影響を与えました。

技法と素材

国立国際美術館の所蔵情報によると、「詩画集『妖精の距離』より 遮られない休息」は1937年に制作された版画作品であり、オフセット印刷により紙に印刷されています。阿部展也の絵は鉛筆素描を元にしたものであり、瀧口修造の詩と視覚的な要素が組み合わされています。

作品の意味

瀧口修造の詩「遮られない休息」は、以下の言葉で綴られています。 「跡絶えない翅の 幼い蛾は夜の巨大な瓶の重さに堪えている かりそめの白い胸像は雪の記憶に凍えている 風たちは痩せた小枝にとまって貧しい光に慣れている すべて ことりともしない丘の上の球形の鏡 ポール エリュアールに」 この詩は、フランスのシュルレアリスムの詩人ポール・エリュアールに献じられたものであり、シュルレアリスム特有のイメージの連鎖によって、儚さ、静寂、そして内省的な世界観が表現されています。瀧口修造は、シュルレアリスムの日本における理論的支柱であり、夢や幻想といったテーマを自身の作品や評論で追求しました。阿部展也の絵画もまた、この詩が持つシュルレアリスム的な思想や世界観を視覚的に具現化したものと考えられます。

評価と影響

詩画集『妖精の距離』は、発表当時、西脇順三郎によってシュルレアリスムの傑作と高く評価されました。この作品は、その後の日本の芸術界に多大な影響を与え、音楽家の武満徹は、瀧口修造の詩「遮られない休息」に触発されて同名のピアノ曲を作曲しています。この楽曲は武満の初期の代表作の一つとされており、詩が持つ印象や感覚を音で表現しようと試みられました。また、彫刻家の宮脇愛子など、多くの芸術家がこの詩画集から影響を受けたとされます。

瀧口修造と阿部展也の協働は、1930年代の日本の「前衛」写真の展開においても重要な位置を占めています。瀧口が主宰した「前衛写真協会」の活動や、彼らの薫陶を受けた写真家たち、例えば大辻清司や牛腸茂雄の作品にもその影響が見られます。本展「モダンアートの街・新宿」における「阿部展也と瀧口修造 美術のジャンルを越えて」という章立ては、彼らの共作が日本のモダンアート史において、ジャンル横断的な活動の起点として重要な評価を得ていることを示しています。