阿部展也(芳文) / Abe Nobuya (Yoshibumi), 瀧口修造 / Takiguchi Shuzo
本作品《瞬間撮影》は、画家・写真家の阿部展也(あべ のぶや、本名:芳文)と詩人・美術評論家の瀧口修造(たきぐち しゅうぞう)による詩画集『妖精の距離』に収められた一点です。1937年に刊行されたこの詩画集は、阿部展也の画家としての本格的な出発点となる重要な作品として位置づけられています。
《瞬間撮影》が制作された1930年代の日本において、瀧口修造はシュルレアリスムを日本に紹介し、前衛写真協会の理論的支柱となりました。当時の日本の前衛写真は技巧に偏りがちでしたが、瀧口は「シュルレアリスム的な写真はストレート写真でも可能である」と提唱し、日常の現実の深い襞に潜む美を見出すことを重視しました。
阿部展也は、この瀧口の思想に共鳴し、日常の中にも価値ある景色や前衛的な構成物が存在するという意識のもとで写真を制作しました。 《瞬間撮影》というタイトルは、その場の偶発性や一瞬のきらめきを捉えようとする意図を表しており、ありふれた光景の中に潜む「なんでもないもの」を変容させ、芸術的な意味を与えるという、前衛写真の精神を体現しています。
この作品は、詩画集『妖精の距離』の一部として制作されており、印刷物、すなわち版画として発表されました。 特定の技法の詳細については明記されていませんが、「印刷・紙」という記載から、当時の印刷技術を用いて紙にイメージが定着されたものと推測されます。
《瞬間撮影》は、瀧口修造が提唱した「なんでもないものの変容」という前衛写真の理念を具体化した作品の一つです。日常風景や何気ない事象の中に、無意識的な要素や瞬間的な反応を見出し、それを写真として提示することで、既存の価値観にとらわれない新たな視覚体験を提示しようとしました。この試みは、シュルレアリスムが持つ、現実の裏側にある非現実や夢の世界を表現するアプローチと、写真の持つ客観性や即時性を融合させるものでした。
阿部展也と瀧口修造による詩画集『妖精の距離』、そしてその中の《瞬間撮影》は、阿部展也の画家としてのキャリアを本格的にスタートさせるきっかけとなりました。 また、この共同制作は、1930年代から80年代にかけての日本の前衛写真史において、瀧口修造、阿部展也、大辻清司、牛腸茂雄へと引き継がれる精神的な系譜の重要な出発点として評価されています。 阿部展也は、画家、写真家、文筆家、研究家など多岐にわたる顔を持ち、常に新しい表現様式を追求し、世界の美術潮流を日本に紹介するなど、日本の芸術界に大きな影響を与え続けました。
本作品が展示される「開館50周年記念 モダンアートの街・新宿」展では、「阿部展也と瀧口修造――美術のジャンルを越えて」の章で紹介され、彼らの分野横断的な活動が新宿の近代美術史において果たした役割を改めて示しています。