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ひまわり / Sunflower

寺田政明 / Terada Masaaki

寺田政明《ひまわり》にみる戦後日本の希望と画家の探求

SOMPO美術館にて開催される開館50周年記念展「モダンアートの街・新宿」において、寺田政明の油彩画《ひまわり》(1950年)が展示されます。この作品は、戦後の混乱期に制作され、希望と力強さを感じさせるモチーフでありながら、画家の深い精神性と探求心を示すものとして、日本近代美術史において重要な位置を占めています。板橋区立美術館の所蔵作品である本作を通して、寺田政明の芸術世界を紐解きます。

制作背景と画家の軌跡

寺田政明(1912-1989年)は、福岡県八幡市(現・北九州市)に生まれ、幼少期の怪我をきっかけに絵画の道を志しました。16歳で上京後、小林萬吾の同舟舎絵画研究所や太平洋美術学校で学び、松本竣介や麻生三郎らと交流を深めました。 1930年代には、画家や文士が多く集まり「池袋モンパルナス」と称された豊島区長崎仲町に居住し、前衛美術運動の中心人物として活躍。シュルレアリスムの影響を受けつつも、彼らは「手の画家」として絵画技法そのものに深く向き合いました。

戦後、寺田は板橋区に転居し、自由美術展や主体展を主な発表の場としました。 1950年に制作された《ひまわり》は、第二次世界大戦終結から間もない時期に描かれ、荒廃からの復興、そして未来への希望を象徴するモチーフとして捉えることができます。画家は終生、小さいもの、弱いもの、消えゆくものへの愛着を深め、物言わぬ動植物や廃船、さびれた港の風景などを好んで描きました。 《ひまわり》に込められた力強い生命力は、戦後の厳しい時代の中で画家が見出した希望の光であったとも解釈できます。

技法と素材

《ひまわり》は、油彩・カンヴァスによって描かれています。 寺田政明は、絵の具の配合を研究し、特にキャンバスの下塗り用のホワイトに並々ならぬこだわりを持っていたことが知られています。 複数のメーカーの絵の具を独自に混ぜ合わせることで、優れた耐久性と発色を実現し、戦前のシュルレアリスム絵画の代表作である1938年制作の《宇宙の生活》などにおいても、絵の具の退色や剥落がほとんど見られないと評されています。 このような絵の具に対する深い知識と探求心が、《ひまわり》においても色彩の鮮やかさと絵肌の堅牢さに貢献していると考えられます。

作品の意味と評価

寺田政明の作品は、戦前におけるシュルレアリスム絵画の先駆者として美術史的な評価を受けつつも、その本質は「イズム」に留まらない、徹底した「絵描き」としての探求にありました。 《ひまわり》は、その力強い造形と色彩によって、見る者に希望や生命力を訴えかけると同時に、画家の内面的な精神性や、対象を深く見つめる眼差しが感じられます。

「モダンアートの街・新宿」展では、新宿を舞台に活動した約40名の芸術家たちの軌跡をたどる中で、《ひまわり》が展示されています。 この展覧会は、明治末期から戦後初期にかけて新宿が日本の近代美術の大きな拠点の一つとなった歴史を紹介するものであり、寺田政明の《ひまわり》もまた、その時代の息吹を伝える重要な作品として注目を集めています。