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婦人像 / Portrait of a Woman

吉岡憲 / Yoshioka Ken

この度は、SOMPO美術館にて開催される「開館50周年記念 モダンアートの街・新宿」展で紹介される吉岡憲の作品「婦人像」についてご紹介します。


吉岡憲《婦人像》

本作品は、夭折の画家として知られる吉岡憲が手掛けた油彩画《婦人像》です。制作年不詳ながら、板橋区立美術館に所蔵されており、画家吉岡憲の芸術性の一端を伝える貴重な作品として位置づけられます。

制作の背景と経緯

吉岡憲(よしおか・けん)は1915年に東京で生まれ、40歳の若さで1956年にこの世を去った洋画家です。中学校在学中に川端画学校に通い、その後は中国・満州のハルビンで美術を学んだ後、1940年頃に帰国しました。帰国後は独立展に出品し、1943年には《母子》で独立美術協会賞を受賞するなど、将来を嘱望された画家でした。太平洋戦争中はジャワに従軍し、現地での文化指導にも尽力しました。戦後、1948年には独立美術協会の会員となり、1949年には日本大学芸術学部の講師を務めるなど、中堅画家として精力的に活動しました。

吉岡は新宿区上落合にアトリエを構え、当時の新宿に集った多くの芸術家たちとの交流の中で制作を行っていました。彼が生きた時代は戦争という激動期であり、その経験は彼の作品にも少なからず影響を与えたと考えられます。本作品《婦人像》の具体的な制作意図は不明ですが、吉岡の作品に共通する、対象の「純一な瞬間」を捉えようとする精神と緊張感から、普遍的な人間像や内面性を深く見つめる画家の姿勢がうかがえます。

技法と素材

《婦人像》は、油彩・カンヴァスという伝統的な洋画の技法で描かれています。吉岡の絵は、「スピード感があり、モチーフの瞬間の純一さで捉えようとする気魄と緊張が画面にみなぎっている」と評されています。筆致は「神経そのもののように敏感で素早い」と形容され、その鋭敏で感覚的な表現は、彼の作品の大きな魅力の一つです。的確でありながら直感的な描写は、対象の内面を深く掘り下げ、見る者に強い印象を与えることに成功しています。

作品の持つ意味

吉岡憲の作品は、表面的な描写に留まらず、鑑賞者が「じっくり見るとその良さがわかる」と評されるように、深い意味合いを含んでいます。特定の制作年は不詳であるものの、彼の画家としての活動期間や、当時の社会状況を鑑みると、この《婦人像》もまた、単なる肖像画に終わらない、人間の存在そのものへの探求が込められていると推測できます。彼は人物の内面や感情の機微を敏感に捉え、写実主義的な筆致の中に独自の感情表現を宿らせることを得意としていました。この婦人像もまた、その表情やたたずまいから、当時の女性が置かれていた状況や、画家自身の人間観が反映されている可能性を秘めています。

評価と影響

吉岡憲は生前、大きな名声を得ることはありませんでしたが、彼の絵は同時代の多くの画家たちを魅了しました。著名な洋画家である麻生三郎や森芳雄らが、吉岡の遺作展に訪れ、熱心に作品を見つめたという逸話も残されています。彼らは吉岡の作品を「絵そのものが放つ香気」を持つと評価し、その華やかな肩書き以上に絵そのものがすべてを物語る画家であると認識していました。

近年、吉岡憲の作品は専門家やコレクターによる再評価が進んでおり、油彩画だけでなくデッサン一枚にも価値が見直されています。彼は「隠れた逸品」として注目されるべき画家とされており、その独特の表現と深い精神性は、現代においてもなお多くの人々に新たな発見と感動を与え続けています。