林芙美子 / Hayashi Fumiko
「開館50周年記念 モダンアートの街・新宿」展に際し、作家・林芙美子による作品「自画像」が紹介されます。本作品は、新宿歴史博物館が所蔵する油彩画です。
アーティスト名:林芙美子 作品名:自画像 制作年:不詳 (n.d.) 技法・素材:油彩・板 所蔵:新宿歴史博物館
日本の著名な小説家である林芙美子(1903-1951)は、文学作品を通じて社会の底辺に生きる人々の姿を描き出し、多くの読者から共感を得ました。しかし、彼女は執筆活動の傍ら、絵画制作にも意欲的に取り組んでいました。特に「自画像」は、彼女が小説家として名声を確立した後に、自身の内面を見つめ、新たな表現を模索していた時期に描かれたものと推測されます。具体的には、この自画像は林芙美子の第二詩集『面影』の巻頭を飾った作品であるとされています。彼女の夫である林緑敏も画家であり、芙美子自身も絵画を愛好し、自宅には多くの西洋画を飾っていたことからも、絵画が彼女の生活と創作活動において重要な位置を占めていたことがうかがえます。この自画像は、文学のみならず、詩や絵画といった多様な芸術表現に挑戦していた林芙美子の、若き日の自由な精神と探求心を示すものとして制作されました。
本作品は「油彩・板」という技法と素材を用いて制作されています。油彩は顔料を油で練り合わせた絵具を使用し、板に描くことで、絵具の質感や色の深みを表現することが可能です。林芙美子の絵画は、技術的に熟達しているというよりも、その自由な筆致と力強い表現が特徴とされています。彼女の作品「角間風景」(1944年)も油彩・キャンバスで描かれており、油絵という表現手段が彼女にとって身近なものであったことを示唆しています。
林芙美子の「自画像」は、単なる自身の容姿の再現に留まらず、作家としての内面性や、文学以外の芸術分野への関心と挑戦の象徴として位置づけられます。当時、彼女は「けっして達者な筆運びではないけれど」も「規制の枠にとらわれないチャレンジ精神が滲みでた自由な画風で、力強さに満ちていた」と評されており、その絵画は彼女自身の生き方や精神性を反映していると言えるでしょう。この作品は、小説家としてだけでなく、一人の人間として、また多様な表現を追求する芸術家としての林芙美子の姿を現代に伝えています。
林芙美子の「自画像」は、彼女の文学作品に比べれば広く知られているわけではありませんが、彼女の多岐にわたる才能と芸術への深い情熱を理解する上で貴重な資料です。特に、自身の詩集の冒頭にこの自画像を配したことは、彼女にとってこの作品が個人的に重要な意味を持っていたことを示しています。この自画像は、作家・林芙美子の生涯と創作活動を多角的に考察するための手がかりを提供し、文学研究者や美術愛好家にとって、彼女の新たな一面を発見させる作品として評価されています。近年、新宿区立林芙美子記念館や新宿歴史博物館では、林芙美子の資料や絵画を含む展示が行われており、その芸術活動への再評価が進んでいます。