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子供像 / Portrait of a Child

麻生三郎 / Aso Saburo

開館50周年記念 モダンアートの街・新宿にて展示される、麻生三郎の作品「子供像」をご紹介します。


麻生三郎「子供像」(1950年)

この度、開館50周年記念「モダンアートの街・新宿」展にて、洋画家・麻生三郎(あそう さぶろう、1913-2000年)の作品「子供像」が展示されています。本作品は、1950年に油彩・カンヴァスによって制作され、豊島区に関連する初期の制作背景を持つとされています。

制作背景と意図

麻生三郎は、1913年に東京に生まれ、太平洋美術学校で学びました。戦前より美術文化協会、そして戦中には松本竣介らとともに新人画会を結成し、自由な表現を追求しました。しかし、1945年の空襲により豊島区長崎のアトリエを焼失し、多くの作品を失うという苦難を経験します。

戦後、1948年に世田谷区三軒茶屋へ移り住んだ麻生は、激動の時代を経て、妻や娘をはじめとする身近な人々を繰り返し描きました。この「子供像」は、その時期である1950年に制作されており、戦争によって深い傷を負った社会の中で、人間存在の根源や、親密な関係性の中に見出す「実在する重さ」を表現しようとした麻生の姿勢が色濃く反映されています。荒廃した時代の中にあっても、子供の姿を通して、内省的なまなざしで現実と向き合い、人間のいる風景を描き続けた画家の心情がうかがえます。

技法と素材

「子供像」は、油彩・カンヴァスという古典的な素材を用いて描かれています。麻生の作品は一般的に、暗色系の色彩で彩られた人物像を特徴とします。この作品においても、重厚な色彩と筆致が用いられ、見る者に深い印象を与えます。絵画の本質を粘り強く探求し続けた麻生の真摯な姿勢が、その表現技法に表れています。

作品の意味

麻生三郎は生涯を通じて、現実と対峙しながらも自身の内面を深く見つめ、そこから浮かび上がる人間像を描き続けてきました。特に戦後間もない時期に描かれた「子供像」は、破壊と再生の狭間にある社会の中で、純粋無垢な子供の存在を通して、人間が持つ本質的な強さや生命の尊厳を問いかけていると言えるでしょう。画面からにじみ出るような「親密な空気」は、見る者に静かな共感と深い思索を促します。

評価と影響

麻生三郎は、戦中から戦後にかけて日本の美術界を牽引した重要な画家の一人です。1952年には武蔵野美術大学の教授に就任し、約30年間にわたり後進の指導にあたりました。彼の作品は、一見捉えがたいものの、時間をかけて見れば見るほど多くのことを語りかけると評されています。常に社会に対する緊張感を保ちながら、現実空間と絵画空間との関係を探究した麻生の歩みは、現代の絵画にも多くの示唆を与え続けています。この「子供像」もまた、麻生三郎という画家の人間洞察の深さと、時代を超えて訴えかける表現力を示す代表的な作品の一つとして、高く評価されています。