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新宿駅 / Shinjuku Station

木村荘八 / Kimura Shohachi

木村荘八《新宿駅》作品紹介

本稿では、開館50周年記念「モダンアートの街・新宿」展で紹介される木村荘八の油彩画《新宿駅》について解説します。この作品は、1935年に制作された油彩・カンヴァスの個人蔵作品です。

制作背景・経緯・意図

画家、木村荘八(1893-1958)は、東京・日本橋に生まれ、日本の近代化と共に育った人物です。彼は、消えゆく江戸情緒と急速に発展する近代都市空間の間で育ち、都市、その日常の営み、そして人々の生き様に強い関心を持っていました。木村の絵画は、過去と現在、伝統と近代という対比を描くことが多く、日本の近代化の過程を象徴的に捉えていました。

《新宿駅》は、昭和初期の東京の急速な近代化を象徴する作品の一つとして位置づけられます。木村荘八は、鉄道駅や商店街、街角といった東京の都市空間の瞬間を捉えた作品を数多く残しており、本作もその代表作の一つです。1935年の新宿駅を描くことで、木村は活気に満ちた都市空間と、当時の東京の近代化、そして都市生活の一端を浮き彫りにすることを意図しました。作品に描かれているのは、朝のラッシュ時や昼間の繁忙期とは異なる、比較的落ち着いた日常の時間帯の情景であるとされています。

技法や素材

本作は、油彩・カンヴァスという古典的な洋画の技法を用いて描かれています。この素材と技法により、当時の新宿駅の風景が写実的かつ情緒豊かに表現されています。

込められた意味

《新宿駅》には、当時の社会的・文化的背景を読み解く多くの手がかりが込められています。駅舎の壁面には「のりば案内」や広告看板が掲げられ、これは近代的な都市空間の象徴であり、当時の消費社会と都市の商業的な側面を強調する要素となっています。また、駅構内を行き交う人々の中には、和装の人々と洋装の人々が混在しており、これは伝統的な日本と西洋的な近代性の融合を視覚的に表現しています。作品全体を通して、木村荘八は都市の風景や街並みを通して、当時の社会が持つエネルギー、情熱、そして変化の兆しを描き出しています。

評価と影響

《新宿駅》は、木村荘八の都市風景画における代表作の一つとして高く評価されており、当時の東京の様子を余すところなく伝えているとされます。木村荘八は、洋画だけでなく、挿絵や随筆など多岐にわたる活動を行い、特に永井荷風の『濹東綺譚』の挿絵などで広く大衆的な人気を博しました。彼は西洋の先進的な美術情報を紹介するグローバルな視野を持ちながらも、江戸に連なる感覚、身近な風景、そしてそこに暮らす人々の風俗といった「東京」を独自の視点で表現し続けました。

彼の没後刊行された『東京繁昌記』は、その絵と文章により日本芸術院賞恩賜賞を受賞しており、東京の情景を描き出す木村の功績は、美術史においても高く評価されています。《新宿駅》のような作品は、日本の近代化の象徴としての鉄道を美術の視点から捉えた重要な作品として、後の展覧会でも紹介されています。