東郷青児 / Togo Seiji
開館50周年記念 モダンアートの街・新宿
本展覧会では、洋画家、東郷青児による1926年制作の油彩作品《ピエロ》を展示しています。この作品は、油彩・カンヴァスを素材として用い、SOMPO美術館に収蔵されています。
本作は、東郷青児が1925年(大正14年)にパリのモンマルトルに滞在中、30歳を目前にして自身の画風を確立しようとしていた時期に制作されました。主題である「ピエロ」は、イタリアの伝統的な即興喜劇「コメディア・デッラルテ」の登場人物であり、当時のパリでは、人気を集めていたロシアのバレエ団「バレエ・リュス」もこの古典的な演目を上演していました。若い頃からオペラなどの舞台芸術に深い関心を抱いていた東郷は、パリ滞在中も頻繁に劇場に足を運んでいたとされます。
この時期の東郷は、未来派の影響から離れ、近代的な合理性と伝統的な古典主義を融合させる道を模索していました。本作に見られる重厚で整理された構成は、当時のパリの文化的潮流への共感をうかがわせるものです。また、東郷がパリでピカソや未来派の画家たちと交流し、シュルレアリスムが胎動する空気を肌で感じていたことから、本作は日本におけるシュルレアリスムの原点の一つとも評されています。
《ピエロ》は、油彩・カンヴァスという伝統的な洋画の素材と技法を用いて描かれています。画面全体は淡い色調でまとめられ、重厚かつ整理された構成が特徴です。本作が制作された1926年は、東郷青児が後に確立する甘美で抒情的な「東郷様式」以前の時期にあたりますが、ピカソの影響を指摘する見方もあります。
作品に描かれたピエロは、仮面の奥の表情をうかがい知ることはできませんが、うつむくその姿にはどこか物憂げな雰囲気が漂います。大きな体格がゆったりとした曲線で描かれ、力強さと同時に余裕を感じさせます。顔が暗く描かれ、人ではないような大きく尖った鼻を持つなど、そのアンバランスさが鑑賞者の興味を引く要素となっています。
東郷青児は、帰国後の1929年に発表した《超現実派の散歩》とともに、日本のシュルレアリスム絵画の先駆者として位置づけられています。本作は、現実離れした幻想的な表現によって、日本の美術界に新たな芸術の可能性を示唆しました。
《ピエロ》は、東郷青児がフランスから帰国した翌年の1928年に開催された第15回二科展で特別陳列され、昭和洋画奨励賞を受賞しています。また、本作に描かれたピエロの姿は、1976年に東郷青児美術館として開館し、後にSOMPO美術館となった当館のシンボルマークに採用されたことがあります。これは、東郷青児の初期の重要な作品として、この美術館の歴史と深く結びついていることを示しています。