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壁 / Wall

佐伯祐三 / Saeki Yuzo

佐伯祐三 《壁》 作品紹介

佐伯祐三の油彩画《壁》は、1925年に制作された作品であり、大阪中之島美術館に所蔵されています。この作品は、佐伯がパリで自らの画風を確立する過程を示す重要な一点として知られています。

制作背景・経緯・意図

佐伯祐三は1923年にパリへ渡り、翌1924年、フォーヴィスムの画家モーリス・ド・ヴラマンクから自身の作品を「アカデミック!」と酷評されたことで、大きな衝撃を受けました。この出来事をきっかけに、それまでのルノワールやセザンヌの影響を受けた穏やかな作風から脱却し、荒々しくエモーショナルな表現を模索し始めます。佐伯はパリの郊外の風景から、次第に中心部の街並みへと制作対象を移し、都市の風景、特に「壁」に着目するようになりました。

当時、大阪や東京の木造建築に見慣れていた佐伯にとって、パリの古く重厚な石の壁は強い印象を与え、これを主題とする「壁」の連作が開始されました。1925年の第一次渡仏期に展開されたこれらの作品群は、同年サロン・ドートンヌで入選を果たすなど、佐伯の画風確立と評価の一端を担いました。《壁》は、この時期の代表的な作品の一つとして位置づけられます。

技法・素材

本作は油彩・カンヴァスで制作されています。佐伯はヴラマンクとの出会い以降、色彩よりも物質感を重視するようになり、絵具を厚く塗ることで壁の質感や量感を表現する独特のマチエール(絵肌)を確立しました。力強く素早い筆致が特徴で、時に筆やナイフを直接用いた勢いのある画風が見られます。作品全体には、どこか暗く重厚な色彩が覆い、独自の雰囲気を作り出しています。

作品の意味

佐伯の作品は、しばしば画家自身の内面や深い精神性を映し出した「自画像」に例えられます。《壁》は西洋建築特有の重厚な壁を真正面から捉え、遠近法にとらわれない潔い構図で描かれています。これは単なる風景描写に留まらず、パリという都市に漂う憂いや、その建築物が持つ存在感を表現していると解釈されています。言葉を知らない日本人画家である佐伯が、文字中心のポスターが貼られた壁を、言葉ではなく模様や風景として捉えて描いたという見方もあります。

評価と影響

佐伯祐三はわずか30歳で夭折しましたが、約4年余りの短い本格的な画業の中で、都市の風景を題材とする独自の様式を確立し、「夭折の天才画家」として日本の洋画壇に大きな影響を与えました。《壁》を含む佐伯の作品群は、その後の日本の洋画に新たな方向性を示すものとなりました。

現在、《壁》を所蔵する大阪中之島美術館は、実業家・山本發次郎の旧蔵品を核に、日本で最も多くの佐伯祐三作品(約60点)を収蔵しています。

この作品は、「開館50周年記念 モダンアートの街・新宿」展で紹介されます。同展は、SOMPO美術館の開館50周年を記念し、新宿ゆかりの芸術家たちの軌跡をたどるもので、一時帰国時に東京・下落合で制作を行った佐伯祐三も、新宿ゆかりの芸術家の一人として選定されています。