岸田劉生 / Kishida Ryusei
東京都現代美術館に所蔵されている岸田劉生の油彩画『武者小路実篤像』は、1914年に制作された、近代日本美術史において重要な肖像画です。現在、「開館50周年記念 モダンアートの街・新宿」展にて展示されています。
本作は、画家・岸田劉生が23歳の時に、文筆家・武者小路実篤(当時29歳)を描いた作品です。岸田劉生にとって、武者小路実篤や柳宗悦らが創刊した文芸・美術誌『白樺』との出会いは、自身の芸術観を形成する上で「第二の誕生」と呼ぶほどの強い衝撃でした。1910年(明治43年)に創刊された『白樺』は、大正デモクラシーを背景に、個性尊重や理想主義を掲げ、西洋の最新美術を積極的に日本に紹介しました。岸田劉生も『白樺』を通してゴッホやセザンヌなどの後期印象派をはじめとする西洋美術に深く影響を受けました。 武者小路実篤は岸田劉生の才能を見抜き、自身の著書の装幀や挿絵を依頼するなど、公私にわたり深い交流を育んでいました。この肖像画は、二人の間にあった強固な友情の記念碑として位置づけられています。
『武者小路実篤像』は、油彩・カンヴァス(Oil on canvas)の技法で描かれており、具体的には麻布が使用されています。作品の寸法は縦38.0cm、横36.5cmと、比較的小ぶりな肖像画です。 岸田劉生は、初期には後期印象派の影響を受けた反写実的な表現を模索していましたが、次第に写実的な細密描写へと傾倒していきました。この作品にも、対象の持つ本質を深く見つめ、細部にわたる描写で実篤の存在感を描き出そうとする劉生の写実への志向が見て取れます。
この肖像画は、若き日の武者小路実篤の姿、特に彼の持つ意志の強さや内面を捉えていると評価されています。武者小路実篤自身も、この作品について「若い時の感じが実によくかけている。岸田で始めてかけるもののようだと思う」と高く評価し、終生大切に愛蔵しました。 本作は、岸田劉生にとっての「第二の誕生」をもたらした白樺派との出会いを象徴する作品であり、劉生の画業における重要な転換点を示すものとも解釈できます。
『武者小路実篤像』は、岸田劉生の初期の代表作の一つとして広く認識されています。武者小路実篤の旧蔵品であった本作は、東京都現代美術館の開館後まもなく、武者小路家から寄贈され、現在同館の重要なコレクションとなっています。 岸田劉生は、この作品に見られるような深い精神性と精緻な写実表現を通じて、日本近代美術に大きな足跡を残しました。彼の作品は、当時の美術界に新たな視点をもたらし、後進の画家たちにも影響を与えました。本作品が、現代においても繰り返し展覧会で紹介され、多くの鑑賞者に親しまれていることは、その普遍的な芸術的価値と影響力を示しています。