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落合の小川 / A Stream in Ochiai

鈴木良三 / Suzuki Ryozo

「開館50周年記念 モダンアートの街・新宿」展で紹介される鈴木良三の作品「落合の小川」は、1922年に制作された油彩・カンヴァスの作品で、現在、茨城県近代美術館に所蔵されています。

作者の背景と制作経緯 画家・鈴木良三(すずき りょうぞう)は、1898年に茨城県水戸市で生まれ、1996年に東京でその生涯を閉じました。彼は1917年に東京慈恵医科大学に入学しますが、同年から画家の中村彝(なかむら つね)に師事し、川端画学校にも通い絵画を学び始めます。1922年に慈恵医大を卒業した後も画家の道を進み、同年には中村彝周辺の画家たちと共に「金塔社」を結成し活動を開始しました。また、この年、第4回帝展に初入選を果たしています。

「落合の小川」が描かれた1922年頃、鈴木良三は、師である中村彝のアトリエがあった下落合の近く、野方町江古田に住んでいました。当時の落合地域は、大正末期から洋館の建築が進み、東京郊外の市街地化が急速に進む中で、多くの画家たちがアトリエを構え、制作活動を行う芸術の拠点でもありました。この作品に描かれている小川は、大正期の妙正寺川であると考えられています。鈴木良三は、低く連なる丘陵と、その下を流れる小川、そして大きく蛇行する流れを捉えるため、川の屈曲点にイーゼルを立てて制作に臨んだと推測されています。

技法と素材 本作は「油彩・カンヴァス」という伝統的な油絵の技法で制作されています。鈴木良三の作品は、色彩のコントラストや荒々しい筆使いを重視している点が特徴であり、印象派やフォーヴィスムからの影響がうかがえます。彼はシスレーやゴッホといった画家のタッチを意識した表現も取り入れていたことが、彼自身の記述からも見て取れます。師である中村彝は、鈴木良三の作品を「素直で平明な観照のもとに、美しき自然の諸相」を描いていると評し、その作風が簡略化された形態把握と豊麗な彩色を特色としていることを指摘しています。これらの技法は、「落合の小川」における自然の描写にも生かされていると考えられます。

作品の意味と評価 「落合の小川」は、都市化が進む東京近郊の風景の中で、ありのままの自然の姿を捉えようとした鈴木良三の初期の重要な作品です。中村彝が評価した彼の「素直で平明な観照」の精神は、この作品からも感じ取ることができます。急速に変わりゆく時代の中で、身近な自然の情景を慈しむ画家の視線が、見る者に穏やかな印象を与えます。

この作品は、茨城県近代美術館に収蔵されており、その芸術的および歴史的価値が公に認められています。また、「開館50周年記念 モダンアートの街・新宿」展で展示されることは、鈴木良三の初期の代表作として、そして近代日本の洋画史における落合地域の美術活動を示す上で、この作品が持つ意義の大きさを物語っています。