中村彝 / Nakamura Tsune
開館50周年記念 モダンアートの街・新宿」展より 中村彝「静物」
本稿では、クヴェレ美術館で開催される「開館50周年記念 モダンアートの街・新宿」展にて紹介される、洋画家・中村彝の作品「静物」(1919年)について解説します。本作品は油彩・カンヴァスボードで制作され、クヴェレ美術館に所蔵されています。
中村彝は1887年(明治20年)に茨城県水戸市に生まれ、1924年(大正13年)に37歳でその生涯を閉じた洋画家です。幼少期に両親を亡くし、軍人の道を志すも肺結核により断念しました。その後、絵画に生きる道を見出し、白馬会や太平洋画会の研究所で学びました。独学で西洋画を研究し、レンブラント、ポール・セザンヌ、ピエール・オーギュスト・ルノワールといった西洋の巨匠たちの影響を受けながら、独自の画風を確立していきました。
本作が制作された1919年(大正8年)は、中村彝が新宿区下落合にアトリエを構えて3年が経過した時期にあたります。彼は1916年(大正5年)にこのアトリエを新築し、以降、亡くなるまでここで制作活動を行いました。病と向き合いながらも創作への強い欲求に突き動かされ、精力的に作品を描き続けた時期であり、静物画もその重要なテーマの一つでした。
「静物」に見られる油彩・カンヴァスボードという技法と素材は、中村彝が油絵を主たる表現手段としていたことを示しています。彼は、光と影の表現や色彩の探求を通じて、対象の内面に宿る精神性を引き出すことを試みました。 彼の静物画は、単なる物の写生に留まらず、画家自身の内省的な世界観や、存在そのものへの深い問いかけが込められていると評価されています。 1919年の「静物」は、彼の短くも濃密な画業の中において、このような内面的な探求が深まっていた時期の作品として位置づけられます。
中村彝は、大正期を代表する洋画家として、日本近代美術史に多大な足跡を残しました。 その作品は今日でも高く評価されており、特に晩年の作品は並外れた存在感を放つとされています。 本作品「静物」(1919年)はクヴェレ美術館の所蔵となっており、2024年から2025年にかけて茨城県近代美術館で開催された「没後100年 中村彝展」では「公の展覧会では初公開となる」と紹介されました。 クヴェレ美術館は2026年2月14日に茨城県水戸市に開館予定の新たな文化施設であり、日本近現代の絵画などをコレクションの中核としています。 このように、中村彝の作品が新たな美術館のコレクションとして公開されることは、彼の芸術が時代を超えて評価され、次世代へと継承されていくことの証左と言えるでしょう。