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雷神図

加藤栄三

加藤栄三作 《雷神図》:古典への新たな解釈と宇宙的表現

国立劇場で開催される「国立劇場の名品展」において、日本画家・加藤栄三の代表作の一つである《雷神図》が紹介されます。本作は1965年(昭和40年)に制作され、第8回新日展に出品された作品です。彩色・紙に描かれた縦193.0cm、横142.0cmの大作であり、加藤栄三が日本の古典美術に初めて本格的に挑んだ転換点となる作品として知られています。

制作の背景と意図

加藤栄三(1906-1972)は、岐阜県出身の日本画家で、深い色調と哲学的な作風を特徴とし、昭和の画壇を牽引しました。弟に日本画家・加藤東一がいます。彼の生涯において《雷神図》が生まれるきっかけとなったのは、1964年(昭和39年)に俵屋宗達の《風神雷神図屏風》に出会ったことでした。この古典作品に深い感銘を受けた加藤栄三は、生涯のうちに風神雷神を描くことを目標としました。

具体的には、東京オリンピックが開催された1964年に国立博物館で開催された「日本の古美術展」が、彼に雷神を描く決意を促したとされています。宗達の屏風絵に加え、妙法院に伝わる国宝《風神雷神像》(彫刻)からも着想を得て制作されました。

加藤栄三は、この作品に「限られた空間の中に宇宙の無限の広がりと深さ」を求め、雷神を無重力状態で表現し、空間の中から前方へ迫り来るような構図を選択しました。それまでの風景画や花鳥画を主体とした制作活動から一転、日本の古典美術を題材とした初めての作品であり、彼の芸術における大きな転機を示すものとなりました。

技法と素材

本作は「彩色・紙」を素材としており、岩絵具を多用した重厚な色彩が特徴です。加藤栄三の作品は、その深みのある色調から、時に油絵を思わせるような表現が用いられることもあります。写実性と自身の感性を融合させた作風は、一度見ただけでは理解しがたく、何度も鑑賞することでその魅力が増すと言われています。

作品が持つ意味

《雷神図》は、伝統的な雷神のイメージを、加藤栄三独自の視点と表現で再構築した作品です。宇宙的な広がりと無重力状態の雷神という表現は、単なる神格化された存在ではなく、より普遍的な自然の力や根源的なエネルギーを象徴していると解釈できます。古典への敬意と、それを現代的な感覚で解釈しようとする加藤栄三の挑戦がこの作品に込められています。

評価と影響

《雷神図》は1965年の第8回新日展に出品され、加藤栄三の代表作の一つとして高く評価されています。

加藤栄三の死後、弟である加藤東一は、兄が生きていれば風神も描いたであろうという鎮魂の思いから、1972年(昭和47年)の兄の三回忌にあたる1974年(昭和49年)の第7回改組日展に《風神》を発表しました。これにより、加藤栄三の《雷神図》と加藤東一の《風神》は、兄弟画家による古典への新たなアプローチを示す対作品として、しばしば並び称されるようになりました。通常、《雷神図》は国立劇場に所蔵されていますが、両作品が揃って展示されることは非常に貴重な機会とされています。

この兄弟による「風神雷神」は、現代日本画における古典解釈の新たな可能性を示し、後進の日本画家たちにも影響を与えています。