森田曠平
「国立劇場の名品展」にて展示される森田曠平の「小さん師匠像」は、日本画家・森田曠平が1992年に制作した日本画作品です。彩色を施された紙に描かれ、90.0 × 64.0 cmの寸法を持つ本作は、同年の第77回再興院展に出品されました。
この作品の背景には、森田曠平の日本画における広範な活動と、日本の伝統文化への深い関心があります。森田曠平は1916年に京都に生まれ、1994年に逝去した日本画家です。幼少期より病弱であったものの、祖母を通じて能や謡曲に親しみ、文学に広く触れることで、後の絵画主題の源泉となる素養を培いました。当初は油彩画を学びましたが、1940年からは小林柯白に、その後1944年には安田靫彦に師事し、本格的に日本画の制作に取り組みました。
森田曠平は、歴史上の人物や物語、そして女性像を描くことに独自の画境を示し、色彩豊かで格調高い風俗画や人物画、物語絵を多く手掛けました。彼の作品には、しばしばきつい眼差しで無表情な女性像が登場する一方で、能や文楽といった日本の伝統芸能からの影響が、その独特な静的な表現に見て取れると評価されています。
「小さん師匠像」の制作意図については、具体的な記録は少ないものの、森田曠平が日本の伝統文化や歴史を深く探求し、その精神性や本質を作品に昇華させようとしていたことに由来すると考えられます。作品名にある「小さん師匠」とは、おそらく落語界の五代目柳家小さんのことであり、人間国宝にも認定された、日本の話芸の最高峰を極めた人物です。森田曠平が日本の伝統芸能に造詣が深かったことを踏まえると、落語という日本の大衆芸能の担い手である小さん師匠を、その晩年に制作した肖像画の主題として選んだことは、日本の文化とその精神に対する画家の敬意と理解を示すものと言えるでしょう。
使用されている技法は、日本画の伝統的な「彩色」であり、紙という支持体に顔料を施すことで、対象の持つ深みや精神性を表現しています。作品の具体的な評価や影響に関する詳細は、個別の作品として広く語られる機会は少ないものの、森田曠平の人物画としての質の高さ、そして日本の伝統文化を主題とした作品群の一部として位置づけられています。
本作品が展示される「国立劇場の名品展」は、国立劇場が再整備のため閉場する期間中に、通常劇場のロビーを飾っていた日本画を中心とする36点の作品を一堂に展示する初の機会となります。森田曠平の別の作品である「ひらかな盛衰記(笹引の段)」(1989年)も同展に出品されており、これらの作品は独立行政法人日本芸術文化振興会(国立劇場)の所蔵となっています。このことからも、「小さん師匠像」もまた、国立劇場の重要なコレクションの一つとして、日本の舞台芸術文化を彩ってきた作品群に連なるものと推測されます。