堅山南風
堅山南風による日本画「鯉」は、1956年に第41回再興院展に出品された作品です。熊本県出身の日本画家である堅山南風は、明治から昭和にかけての日本画壇を支えた中心人物の一人として知られています。
堅山南風(1887-1980)は、幼くして両親を亡くし、苦学しながら絵画を学びました。高橋広湖に師事した後、横山大観に認められ、日本美術院を活動の拠点としました。南風は、花鳥画、特に鯉を中心とする魚類を描くことに優れており、その才能は高く評価されています。幼い頃から地元の「鯉の画人」として知られた雲林院蘇山の絵に傾倒していたことも、鯉を主要な画題とする背景にあると考えられます。 制作にあたっては、伝統的な枠にとらわれず常に新しい表現を追求し、時にはスランプを打開するためにインドへ渡るなど、画境の深化に努めました。彼の作品は、自然に触れ、五感で感じ取った「生命」を描ききる写生の原点を追求したものであり、鯉の絵にもその精神が如実に表れています。
本作「鯉」は1956年に制作され、彩色・紙を素材とし、155.0 × 141.0 cmという大画面に描かれています。堅山南風は写生に基づいた表現を重視しており、鯉の力強い生命感や躍動感を、鮮やかな色彩と伸びやかな筆致で捉えています。
堅山南風の「鯉」は、単なる写実を超え、その中に宿る生命の本質を表現しようとする作家の意図が込められています。彼の描く鯉は、逆境に立ち向かう力強さや、清らかな水中で悠々と泳ぐ生命の輝きを感じさせます。花鳥画における「鯉」という画題は、古くから尊ばれ、縁起の良いものとされてきましたが、南風はそれを独自の感性で捉え直し、鑑賞者に深い感銘を与える作品として昇華させました。
堅山南風は、日本美術院同人、日本芸術院会員、文化功労者、そして文化勲章受章者という輝かしい経歴を持つ、日本画壇の巨匠です。 彼の「鯉」の作品群は、「秀逸な魚類」として特に高く評価されており、東京国立近代美術館や山種美術館など、主要な美術館に作品が所蔵されています。 1958年には、東京・深川富岡八幡宮に「鯉」の大額が奉納されるなど、社会的な評価も確立していました。 彼の写生を基盤とした生命感あふれる表現は、後進の画家たちにも大きな影響を与えました。