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花菖蒲

山口蓬春

国立劇場で開催される「国立劇場の名品展—鏑木清方、小倉遊亀、東山魁夷、髙山辰雄、加山又造…」に出品されている、山口蓬春の作品「花菖蒲」についてご紹介します。

作品概要

本作品「花菖蒲」は、1967年に制作された、彩色・紙による作品で、61.6 × 90.8 cmの寸法を有します。

制作背景・経緯・意図

山口蓬春は、大正から昭和にかけて活躍した日本画家であり、その画業において、当初は洋画を志し、その後日本画へと転向したという背景を持ちます。彼は、ブラックやマティスといったフランス絵画の影響を受けたモダンな作風、いわゆる「新日本画スタイル」を確立しました。戦後、神奈川県葉山町にアトリエを構えてからは、自宅の庭に咲く四季折々の草花を主な題材とし、日々写生を重ねて制作に励みました。 「花菖蒲」は1967年に、国立劇場の貴賓室のために制作された作品です。この依頼制作という背景は、作品の持つ格式と、当時の山口蓬春に対する高い評価を示しています。彼は「日本画の古典的なものを、充分に研究しなければ、結局は新しい感性の働きで、正しく新しい素材を見出す事は出來ない」と述べ、伝統的な日本画の技法と古典研究を基盤としながら、そこに自身の新しい感性を取り入れることを意図していました。

技法と素材

本作品は「彩色・紙」という、日本画の伝統的な素材と技法が用いられています。山口蓬春の制作過程は、まず対象を前にした写生から始まり、その後下図を作成し、本制作へと移行するというものです。彼の作品にはキュビスム的な影響が見られるなど、伝統的な日本画の枠に留まらない、洋画の要素を取り入れた独自の表現が特徴とされています。

作品の意味

山口蓬春は、花鳥画を通じて自然への深い愛情と、それを新日本画へと昇華させる姿勢を示しました。花菖蒲は、その優美な姿から古くから日本画の画題として描かれてきました。花菖蒲の花言葉には、「うれしい知らせ」「優しさ」「伝言」「心意気」「優しい心」「優雅」「あなたを信じる」などがあり、作品に込められた静謐な美しさと、見る者に語りかけるような存在感をより一層深めていると考えられます。

評価と影響

山口蓬春は、1965年に文化勲章を受章し、日本芸術院会員、日展の理事や顧問を歴任するなど、日本画壇の重鎮としてその功績が認められています。彼の作品は、伝統的な日本画に洋画のモダンな感覚を融合させた「新日本画」として高く評価され、後の日本画家に大きな影響を与えました。特に「花菖蒲」が国立劇場の貴賓室を飾るために制作されたという事実は、この作品が彼の代表作の一つであり、その芸術的価値と高い完成度が広く認められていたことを物語っています。