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天橋図

川端龍子

この度は、国立劇場の名品展にて展示される川端龍子による作品「天橋図」についてご紹介いたします。

川端龍子「天橋図」

本作品「天橋図」は、1960年に開催された第32回青龍社展に出品された、川端龍子(かわばた りゅうし、1885-1966)による彩色・紙の作品です。242.0 × 145.4 cmという大画面に描かれました。

制作背景・経緯・意図

川端龍子は、明治から昭和にかけて活躍した日本画家であり、日本画を「床の間芸術」から解放し、広く大衆に開かれた「会場芸術」を提唱した革新者として知られています。1929年に自ら青龍社を設立し、従来の日本画の枠にとらわれない、大画面で迫力ある作品を発表し続けました。 「天橋図」が制作された1960年は、龍子が文化勲章を受章した翌年であり、その芸術観が円熟期を迎えていた時期にあたります。龍子はこの作品において、京都の景勝地である天橋立を、砂州の真上、まるでヘリコプターから見下ろすかのような意表を突く視点から捉えています。これは、観る者を圧倒するスケール感と迫力を重視した「会場芸術」の思想を体現するものであり、従来の絵画表現に新たな視覚体験をもたらそうとする龍子の意図がうかがえます。

技法・素材

「天橋図」は「彩色・紙」を主な素材としていますが、龍子の作品全般に見られる特徴として、筆の勢いや大胆な構図で観る者の心を動かす表現を追求しました。彼は金箔や装飾的な技法に頼ることなく、絵具の扱い方や水の物性を深く探求し、その身体的・運動的なプロセスを通じて作品に生命力を吹き込みました。 特に水を描くことに長けていた龍子は、激しく流れる水の流れやほとばしる波しぶきを、巨大なエネルギーとして表現しました。この作品においても、風によって白波が立つ砂州の情景が、龍子ならではの水の描写によってダイナミックに描かれています。

意味

本作品は、日本の名勝を斬新な視点から描くことで、自然の雄大さとそこに息づく生命の躍動を表現しています。上空からの視点は、単なる風景描写に留まらず、人間が普段目にすることのない角度から物事を捉え、新たな発見と感動を与えることを意図していると考えられます。また、龍子が「竜の落とし子」と自称し、龍を自身の分身のように描いたことも知られており、荒々しい波が打ち寄せる天橋立の情景は、画家の内面に宿る力強さや革新への情熱を象徴しているとも解釈できるでしょう。

評価・影響

川端龍子は、佐藤春夫に「真に巨匠と呼ぶにふさわしいのは、ただひとり川端龍子ぐらいなものではないだろうか」と称されるなど、その時代を代表する巨匠の一人として高い評価を受けていました。彼が提唱した「会場芸術」は、従来の日本画の概念を打ち破り、大画面の作品が美術館や公共空間に展示される今日の日本画のあり方に大きな影響を与えました。 「天橋図」の、意表を突く航空写真のような視点での描写は、当時の画壇においても注目を集め、鑑賞者に強い印象を与えました。龍子の作品は、そのスケール感と迫力、そして伝統に囚われない自由な表現によって、多くの後続の画家たちにも影響を与え、日本画の可能性を広げる上で重要な役割を果たしました。