高山辰雄
国立劇場で開催される「国立劇場の名品展」にて展示される、髙山辰雄の日本画作品「水辺の家」についてご紹介します。
本作品は、1988年に制作された髙山辰雄による「水辺の家」で、紙に彩色という技法が用いられ、66.4 × 52.8 cmの寸法を有します。
日本画家・髙山辰雄(1912-2007)は、戦後の日本画壇を牽引した巨匠の一人であり、東山魁夷、杉山寧とともに「日展三山」と称される高い評価を受けていました。1982年には文化勲章を受章するなど、その功績は広く認められています。 髙山は、伝統的な日本画の技法を用いながらも、幻想的で独自の画風を確立しました。彼の作品は、人間存在や自然、宇宙といった根源的なテーマを探求し、深い精神性を湛えていることが特徴です。 1980年代の髙山は、「森羅万象」や「人間と自然、宇宙」といったテーマに深く向き合っていました。この時期の作品には、厚く塗り重ねられた絵具によるざらざらとした質感が特徴的で、単色の中に奥深い色彩を秘め、観る者を惹き込むような表現が見られます。 「水辺の家」が制作された1988年頃、髙山は故郷を繰り返し写生し、それを自身の内面を見つめ直す行為と語っています。この時期の作品には、具体的な風景描写を超え、象徴的な意味を内包したモチーフが頻繁に登場します。
「水辺の家」は、作品詳細に「彩色・紙」とあるように、紙に彩色を施して制作されています。髙山辰雄は伝統的な日本画の画材や技法を基盤としながらも、西洋絵画の要素や独自の解釈を取り入れ、重厚なマチエールと深い色彩表現を追求しました。1980年代の彼の作品には、しばしば絵具が厚く塗り重ねられ、表面に独特のざらつきを生じさせる表現が見られます。これにより、単一の色の中に奥行きと複雑なニュアンスがもたらされ、鑑賞者に強い印象を与えます。
髙山辰雄の作品において「家」というモチーフは、単なる建築物としてではなく、人間の存在、あるいは精神的な拠り所を象徴するものとして描かれることがあります。特に「水辺」という要素が加わることで、生と死、時間の流れ、あるいは移ろいゆくものと不変なものといった、より深遠なテーマを暗示している可能性があります。髙山が「宇宙、自然の中での人間を見つめる」という制作姿勢を持っていたことを鑑みると、「水辺の家」は、広大な自然や宇宙の中で、人間がいかに存在し、何をよりどころとするのかという問いかけを内包していると考えられます。静謐な水辺に佇む家は、外界の喧騒から隔絶された内省的な空間、あるいは人間の心の奥底にある普遍的な感情を表しているとも解釈できるでしょう。
髙山辰雄の作品は、戦後の日本画に新たな境地を開いたものとして高く評価されています。彼の生み出す幻想的な世界観と、伝統に根ざしながらも革新的な表現は、多くの後進の画家たちに影響を与えました。1988年に制作された「水辺の家」もまた、その制作年が髙山が文化勲章を受章した後の円熟期にあたることから、彼の芸術的探求の深まりを示す重要な作品の一つとして位置づけられます。この時期の作品は、人間の内面と外界との関係性を深く見つめ、観る者に静かな思索を促す力を持っています。