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ライアン・ガンダー:ユー・コンプリート・ミー

ポーラ美術館にて開催される展覧会「ライアン・ガンダー:ユー・コンプリート・ミー」は、英国を拠点に国際的に活躍するアーティスト、ライアン・ガンダーの多岐にわたる創作活動の最新の成果を紹介するものです。本展は、絵画、彫刻、映像、テキスト、VRインスタレーション、さらには建築、出版物、書体、儀式、パフォーマンスといった多様なメディアを駆使し、芸術の枠組みとその意味そのものに問いを投げかけるガンダーの独自の世界観を提示します。

1:展覧会の見どころ

本展「ライアン・ガンダー:ユー・コンプリート・ミー」の最大の見どころは、ライアン・ガンダーが自らを「一種のネオ・コンセプチュアルであり、特定の様式をもたないアマチュア哲学者」と称する、その知的な遊び心と鋭いユーモアに満ちた表現世界を、鑑賞者自身が「完成させる」という点にあります。ガンダーは、日常の中に潜む物語や多層的な意味を巧みに抽出し、私たちを思索の旅へと誘います。彼の作品には、不在、死、不可視、潜在性といった深遠なテーマが、現実と虚構が複雑に絡み合う中で展開されます。

今回のポーラ美術館での展覧会では、ガンダーの最新作が一堂に会します。全18点の作品のうち、半数以上が本展のために制作された新作、あるいは日本で初公開となる作品群です。 これらの作品は、人間の言葉を話すカエル、読めない時計、仮想の国旗、あるいはある兄弟の偽りの歴史など、極めて具体的でありながら、捉えどころのない神秘に満ちています。 ガンダーは「アートの目的はコミュニケーションではなく、触媒として曖昧さを提供すること」と語っており、作品の意味は固定されたものではありません。 鑑賞者の解釈と連想のプロセスを通じて、出会いのたびに新たな物語が創造されることが、この展覧会の醍醐味であり、まさに展覧会タイトル「ユー・コンプリート・ミー(あなたが私を完成させる)」が意味するところです。

2:展覧会の流れ

本展は、ポーラ美術館のアトリウム ギャラリー、展示室4、そしてロビーといった複数の空間を活用し、さらには屋外やカフェの中にも作品が点在する構成となっています。 鑑賞者は、美術館に足を踏み入れた瞬間から、ライアン・ガンダーが仕掛ける知的でユーモラスな問いかけに巻き込まれていきます。

導入部:ロビーの誘い

美術館のエントランスを抜けてすぐのロビーエリアでは、鑑賞者はまず、ガンダーの哲学的なアプローチへの導入となる作品群と出会うことになります。ここでは、彼の作品が持つ親しみやすさと同時に、深い思索を促す二面性が提示されます。例えば、人間の言葉を話すカエルをモチーフにした作品など、奇妙でありながらもどこか愛らしい存在が、鑑賞者の日常的な認識に揺さぶりをかけ、本展が提示する問いの入り口となるでしょう。 この最初の出会いを通じて、鑑賞者は作品と対話し、自らの経験や視点から意味を紡ぎ出すという、展覧会全体を貫く鑑賞体験へと誘われます。

第一章:アトリウム ギャラリー — 認識の再構築

ロビーでの導入を経て、広々としたアトリウム ギャラリーへと進むと、ガンダーのより大規模なインスタレーションが鑑賞者を迎えます。この空間の中心に位置するのが、作家の新しい局面を示す作品として注目される《閉ざされた世界》です。 この作品では、おもちゃのブロック、恐竜、動物のフィギュア、植物の人形など、無数のオブジェが床に規則正しく一列に並べられ、空間全体を埋め尽くしています。

鑑賞者は、この整然とした配置の中に、秩序と混沌、あるいは意味の創出と消失といったテーマを感じ取るでしょう。作品が持つ圧倒的な物量と、その意外な配置は、私たちを取り巻く世界の構造や、私たちが物事を認識する際の枠組みそのものに疑問を投げかけます。アトリウムという開かれた空間で展開されるこの作品は、視覚的なインパクトとともに、鑑賞者の内面で概念的な再構築を促す、本展の重要な見どころの一つです。

第二章:展示室4 — 不在と存在の対話

アトリウム ギャラリーから展示室4へと移ると、ガンダーが探求するより深遠なテーマに触れることができます。この空間は、不在、不可視、現実と虚構の境界線、そして多層的な意味といった彼の主要な概念を掘り下げるためのセクションとして構成されています。

セクションA:見えないものたちの物語

このセクションでは、「不在」や「不可視」をテーマにした作品が展示されます。壁の穴から小さなネズミが語りかけるという《2000 year collaboration (The Prophet)》のような作品は、目に見えない存在の声や物語に耳を傾けることを促します。 物理的に存在しないもの、あるいは意図的に隠されたものが、鑑賞者の想像力によってその存在感を増すというガンダーの巧みな手法がここで顕著に表れます。読めない時計や、意味を特定できないテキストベースの作品もこのセクションに配置され、言葉や時間の本質、そしてそれらが持つ曖昧さを深く考察する機会を提供するでしょう。

セクションB:現実と虚構の境界線

続くこのセクションでは、現実と虚構が複雑に絡み合うガンダーの世界観が具体的に展開されます。例えば、仮想の国旗や、ある兄弟の偽りの歴史を語る作品は、私たちが当たり前と信じる「事実」がいかに構築されたものであるかを問い直します。 ガンダーの父親が写真整理のために記した手書き文字を絵画として再構築した作品や、家族との協働によって生まれた作品群もここに展示される可能性があり、個人的な記憶や記録がアートの文脈でどのように変容し、新たな意味を持つのかを示唆します。 また、壁に設置された目と眉が豊かな表情を見せる《Magnus Opus》のような作品は、無機質なものが生命を帯びるかのような錯覚を生み出し、鑑賞者の認識の境界線を揺るがします。

セクションC:多層的な意味と潜在性

この展示室の最終セクションは、作品に込められた多層的な意味と、それが持つ「潜在性」に焦点を当てます。ここでは、鑑賞者が作品と向き合い、自らの解釈や連想を通じて作品の「完成」に深く関与する体験が重視されます。動物をモチーフとした新作も、このセクションで展示されることが予想され、それぞれが持つ象徴性や物語性が、鑑賞者個人の多様な解釈によって豊かに広がるでしょう。 ガンダーの作品は、一つの明確な答えを与えるのではなく、むしろ無数の可能性を提示することで、鑑賞者の思考を刺激し、それぞれにとっての「新たな物語」を紡ぎ出す力を秘めています。

エピローグ:館内外に広がる対話

展示室4を後にしても、ライアン・ガンダーの世界は終わりません。ポーラ美術館の館内、さらには屋外やカフェなど、予想外の場所に作品が点在することで、鑑賞体験は美術館という閉じた空間を超えて広がります。 これらの作品は、日常の風景の中に溶け込みながら、ふとした瞬間に鑑賞者の意識を捉え、美術館の外でもアートとの対話を継続させます。この体験を通じて、鑑賞者はガンダーが提唱する「曖昧さを提供する触媒としてのアート」という概念を、より身体的に理解することになるでしょう。

3:全体のまとめ、結びの文章

ライアン・ガンダーの展覧会「ユー・コンプリート・ミー」は、単なる作品の展示に留まらず、鑑賞者自身の認識や思考のプロセスそのものに焦点を当てた、深く、そして挑戦的な試みです。ガンダーは、絵画、彫刻、映像といった多種多様な表現形式を駆使しながら、現代社会に潜む矛盾や、芸術の存在意義について、知的で時に皮肉なユーモアを交えながら問いかけます。

本展を巡ることは、私たちが普段当たり前と見過ごしている日常の事象や、既存の知識体系、あるいは現実と虚構の境界線について深く考察する機会となるでしょう。作品が持つ「不在」や「不可視」のテーマは、鑑賞者の想像力を最大限に引き出し、目に見えるものだけが全てではないという示唆を与えます。

ポーラ美術館の各空間に展開されたガンダーの最新作は、固定された意味を排し、鑑賞者の解釈によってその都度「完成」するという独自の芸術観を体現しています。 この展覧会は、訪れる人々がアーティストの問いかけに応答し、自らの内なる対話を通じて、それぞれにとっての新しい意味や物語を創造する場となることでしょう。ぜひ、この特別な機会にポーラ美術館を訪れ、ライアン・ガンダーが仕掛ける知的で刺激的な旅を体験し、あなた自身が「ユー・コンプリート・ミー」の「あなた」となって、作品を完成させてください。

展示会情報

会場
ポーラ美術館 アトリウム ギャラリー、展示室4、ロビー (神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285)
開催期間
2025.05.31 — 2025.11.30